2024年度

研究成果

2024年度


 

マルチスケール解析グループ

田中 敬二グループ

分子界面制御に基づく革新的接着技術の構築

石英界面におけるポリスチレン(PS)/ポリメタクリル酸メチル(PMMA)混合物における官能基の配向分布を和周波発生 (SFG) 分光顕微鏡に基づき評価した。組成比(75/25)の場合のみ、面内方向におけるエステルメチル基に由来するSFG強度の不均一な分布が観測された。また、表面・界面物性解析装置により評価した組成比(75/25)の剥離強度は、組成比(25/75)のそれより小さかった(図1) [1] 。2官能および3官能エポキシ主剤を同じジアミンで硬化させた場合、3官能エポキシの系(ER3)における反応は、2官能性エポキシ(ER2)のそれと比較して、速いことが明らかになった。レオメーター測定に基づき評価したゲル化点での反応率 (α) は、ER2およびER3の場合で、それぞれ55%, 40%であった。また、ガラス化が始まるα は、ER2およびER3で、それぞれ70%, 40%であったことから、3官能エポキシの系では、ゲル化とガラス化がほぼ同時に進行したと考えられる (図2)[2]。アモルファスアルミナ表面上に水の分子層を置き、その上にエポキシ/アミン混合物を配置してMD計算を行い、硬化反応への影響を調べた。最界面の水はアルミナ表面のOH基と水素結合を形成し、過剰な水は凝集した。一部の水はエポキシ側へ浸透し、未反応物の移動度を高めた結果、特に界面から1 nmの領域で硬化反応が加速された(図3) [3] 。モル比の異なるエポキシ硬化物(DGEBA/DDM)の架橋構造を評価した結果、ダングリング鎖や孤立鎖が存在し、アミン分率の増加に伴い、その体積分率および孤立鎖の分子量は増大した。広角X線散乱測定において、フェニル基間に由来する散乱が観測され、アミン分率の増加に伴い、フェニル基間距離は減少した。近接するベンゼン環どうしの回転抑制が弾性率の増大に寄与することが示唆された (図4) [4] 。異なるメチレン基数(n = 2,6,12)を有するn-アルキルジアミンとDGEBAとの硬化物について、種々の温度で一定の応力 (σ) を印加し、破断に至るまでの時間(trp)を計測した。σtrpの関係を評価し、各温度のデータをガラス転移温度に対して横シフトファクター(aT)分だけシフトしてマスターカーブを作成した (図5) 。破断前後における試料の架橋密度を溶媒膨潤法に基づき評価した結果、nが小さいほど、架橋密度の減少が顕著であり、巨視的な破断は分子鎖の切断を伴うことが明らかになった[5] 。

関連論文

  1. Abe, T.; Yamamoto, S.; Tanaka, K. Effect of Interfacial Local Conformation of Polymer Chains on Adhesion Strength. Polym. Chem. 2024, 15(43), 44254432.
  2. Tokunaga, A.; Shundo, A.; Kuwahara, R.; Yamamoto, S.; Tanaka, K. Effect of Number Density of Epoxy Functional Groups on Reaction Kinetics for Epoxy Resin. Macromolecules 2024, 57(22), 10530–10538.
  3. Yamamoto, S.; Tsuji, Y.; Kuwahara, R.; Yoshizawa, K.; Tanaka, K. Effect of Condensed Water at an Alumina/Epoxy Resin Interface on Curing Reaction. Langmuir 2024, 40(24), 12613–12621.
  4. Yamamoto, S.; Phan, N. T.; Kihara, K.; Shundo, A.; Tanaka, K. Off-stoichiometry Effect on the Physical Properties of Epoxy Resins. Polym. J. 2024, 57, 357–366.
  5. Shundo, A.; Aoki, M.; Yamamoto, S.; Tanaka, K. Impact of Cross-linking on the Time–temperature Superposition of Creep Rupture in Epoxy Resins. Soft Matter 2025, 21, 5005–5013. 

西野 孝 グループ

高分子接着界面のナノラマン散乱による解析

顕微ラマン分光解析による接着界面評価[1,2]では、類似の骨格を持つエポキシ樹脂界面の評価に取り組み、2種類の界面形成機構が存在する原因を明らかにした (図1) 。被着体基板のエポキシ樹脂の硬化度に依存して、接着剤側のエポキシモノマーが浸透する挙動が変化することによるものであった。残留応力の評価では、湿熱劣化による残留応力の低減が、接着剤の湿熱劣化後のガラス転移温度に大きく依存することを明らかにした (図2) 。さらに、接着剤のエポキシの硬化過程や架橋密度によりガラス転移温度が変化するとそれに対応して残留応力の値も変化することを明らかにした。リサイクル炭素繊維複合材料の研究では、リサイクル炭素繊維の表面処理により、複合材料内でのマトリックスのナイロン樹脂から各炭素繊維への応力伝達が改善されることも応力印加時のラマン分光評価で明らかにした(図3) 。得られた結果は、それらのマクロな力学物性やさらにひずみ印加時のX線CT測定におけるボイドの発生のしやすさとよく一致する結果となった。

関連論文

 

  1. Aoki, N.; Yamazaki, J.; Matsumoto, T.; Totani, M.; Shundo, A.; Tanaka, K.; Takashi Nishino, T. Analyses and Control of Interphase Structures and Adhesion Properties of Epoxy Resin/Epoxy Resin for Development of CFRP Adhesion Systems. Composites, Part A 2024, 187, 108511.
  2. Matsumoto, T.; Shimoura, N.; Aoki, N.; Takahashi, N.; Mizuno, S.; Nishino, T. Observation and Control of Single-Component Adhesion Interphase of Polyamide 66 through Confocal Raman Microspectroscopy. ACS Appl. Mater. Interfaces 2025, 17(13), 20374–20382. 

初井 宇記 グループ

低損傷放射光顕微X線マルチスケールイメージング技術の開発

炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の力学特性および信頼性を向上させるためには、炭素繊維(CF)と樹脂の接着界面における分子スケールでの理解[1]と、マイクロメートルスケールでの内部構造の理解を統合することが重要である。本研究では、力学特性評価用試験片全体に対して、マイクロメートルスケールで構造評価が可能な手法の開発を目的としている。特に、ISO527-2-1A規格(最狭部幅10 mm、最狭部長80 mm、厚み4 mm)に準拠した試験片の可視化を目指して研究を進めている。

これまでの研究により、SPring-8のBL20XUに設置されたnanoX線CT装置を用いることで、CFRPの繊維凝集領域やボイド、さらには凝集内における繊維の扁平変形を可視化できることが明らかとなった。しかし、nanoX線CTは高い空間分解能を有する一方で、視野が直径100 μm程度に制限されるという課題がある。ISO527-2-1A規格試験片の観察対象領域の体積は、nanoX線CTの視野の100万倍以上であり、現行のnanoX線CT装置では全体観察に対応できない。そこで、ゾーンプレートを使用しない等倍光学系を新たに構築した。解像度を維持しつつ広視野化を図るため、シンチレータおよびレンズ部を最適化した専用のDIFFRAS検出器[2]を製作した。SPring-8のBL29XUにてISO527-2-1A規格試験片の観察を行ったところ、試験片中央部をインテリアCT条件下で良好に可視化することに成功した(図1)。また、直径4.4 mm領域に対して人工知能によるインスタンスセグメンテーション[3]を実施した結果、良好な分離結果が得られた(図2)。この結果から、繊維長や走行方向の分布を直ちに取得できる。さらに、ボイドおよび繊維密度に関しては、古典的手法に基づくセマンティックセグメンテーションにより解析を行った。得られた繊維密度マップを図3に示す。これにより、繊維密度を三次元定量データとして取得することに成功した。以上の結果により、本研究で開発した放射光X線CT手法を用いて、製造条件を変えた多数の試料を測定すれば、マイクロメートルスケールの内部構造と力学特性との相関解析が可能になると考えられる。

関連論文

中嶋 健 グループ

エポキシ樹脂のネットワーク不均一性/変形下にあるガラス状高分子の不均一応答

エポキシ樹脂のネットワーク構造の不均一性の存在は、その接着性や力学的特性に強く影響する可能性がある。これまでの研究では硬化プロセスの違いで生じる構造的不均一性のサイズと力学物性の変化を追跡してきたが、 本研究ではそれをさらに深掘りし、 ナノレオロジー原子間力顕微鏡(AFM)とバイモーダルAM-FM法を組み合わせて、ナノスケール力学特性を直接可視化し、定量化した。その結果、硬化条件とエポキシ樹脂ネットワーク構造の不均一な挙動との間に相関関係があることが明確に示され、またそれは巨視的測定から予測されるものと非常によく一致していた。特にナノレオロジーAFMの結果からは、ナノスケールでのコンタクトでのマスターカーブを描くことに成功し、ネットワークの不均一性とエポキシ樹脂のガラス転移挙動との関係も明らかになった (図1) [1] 。また無秩序なガラス状高分子の非線形領域における力学変形をモデル化することを目的に、外部応力によって誘起されるPnBMA(ポリメタクリル酸ブチル)の局所構造と運動性の相関解析を行った (図2) 。そのためにナノレオロジーAFMに基づく新しいアプローチを採用した。まずAFM探針で異なる初期荷重を与え、その状態で微小な振動を加えることで粘弾性情報を取得した。その結果、圧縮レベルを線形領域から塑性変形領域へと増加させることで、tanδ(損失正接)の増加が観察され、圧縮による分子運動性の増大が認められた。さらにはtanδマッピングによって、塑性変形下でのナノスケールでの空間不均一性を定量化し、昇温によって誘発される不均一性とは異なる不均一性が生じていることが判明した [2]。

関連論文

  1. Nguyen, H. K.; Shundo, A.; Yamamoto, S.; Tanaka, K.; Nakajima, K. Influence of Network Heterogeneity on the Nanoscale Mechanical Properties of Epoxy Resins. Polym. J. 2025, 57, 367375.
  2. Nguyen, H. K.; Pittenger, B.; Nakajima, K. Mapping the Nanoscale Heterogeneous Responses in the Dynamic Acceleration of Deformed Polymer Glasses. Nano Lett. 2024, 24(30), 9331–9336.

山田 淳 グループ

電子顕微鏡を用いた接着界面の構造評価

平均粒径100 nmのフェニルシラン修飾シリカ粒子を15 wt%含有する厚さ100~160 nmのエポキシコンポジット試験片を透過型電子顕微鏡(TEM)内で一軸延伸を行いつつ、単一粒子近傍での亀裂進展挙動のin-situ観測を高精度に実施した。延伸速度5 nm/s で延伸した場合の結果の一部を図1に示す(延伸は図の左右方向)。先ず、延伸に伴いナノボイドが発生した。延伸を続けてゆくと亀裂が発生し(図1(a)の下側)、粒子近傍で亀裂の進行が抑制され(図1(b))、進行方向が変わり(図1(c))、粒子の側面を通過していく(図1(d))様子が明瞭に観察された。グループ間連携により、分子動力学計算による延伸過程におけるボイド発生のシミュレーション、デジタル画像相関(DIC)法による延伸過程の二次元ひずみ分布の変化、さらに亀裂進展方向のシミュレーションを行い、破壊メカニズムのマルチスケール解析を行った[1]。また亀裂進展挙動に対する試験片の厚さの影響についても検討した。シリカ/エポキシコンポジットをウルトラミクロトームで切削して作製した厚さ約300 nmの試験片について亀裂進展挙動を観測し、バルクと薄膜との比較検討を進めた。

シリカ/エポキシ接着界面のマルチスケールモデリングの観点から、バルク試料の一軸延伸における試験片表層のin-situ SEM観察を行うとともに、破壊の力学解析も進めた。具体的には、上記シリカ粒子を15 wt%含有するエポキシコンポジットのダンベル型試験片(JIS規格No.7,厚さ〜0.3 mm)を作製した。試験片の延伸に伴うひずみ分布をDIC解析した結果(図2 (a)(b)) 、マクロ的にはひずみが延伸部(幅2 mm, 長さ10 mm)全体に分布することが予測された。また0.2 mm/min(チャック間移動速度)での延伸により得られた応力―ひずみ曲線(図2(c))よりヤング率や破壊エネルギーを求めた。シリカ粒子含有率についても変化させて同様の検討を行った。

関連論文

  1. Kobayashi, T.; Ogawa, K.; Maeda, R.; Wang, P.; Kubozono, T.; Yoshihara, D.; Yamamoto, S.; Yamada, S.; Tanaka, K.; Omiya, M. Quantitative Evaluation of Crack Arrest Mechanisms in Epoxy/Silica Nanocomposites. Compos. Sci. Technol. 2025, 261, 111028.

青木 裕之 グループ

接着界面の高精度ナノ構造解析技術の開発

中性子反射率(NR)法は被着体バルクに埋もれた接着界面の構造をオングストローム〜サブマイクロメートルの広い空間スケールで評価する上で強力な手法である[1] 。しかしながら従来の構造評価にあたっては、予め構造モデルを予測・仮定した上で解析を行う必要があるため、時として不正確な解を導く可能性があった。本研究では、レプリカ交換モンテカルロ法を用いたベイズ統計を導入することで、初期構造を仮定することなく解析を行うことが可能となった。ポリスチレンを参照試料とした図1(a)に示すNRデータに対して従来の解析を行うと、初期条件に依存して図1(b)の赤と青のように全く異なる散乱長密度プロファイルが得られた。一方、ベイズ解析では赤で示したプロファイルが得られ、これは参照試料の構造とよく一致するものであった。このようにベイズ統計を利用することで、初期に仮定を行うことなく正確な界面構造解析を可能にした。一方、接着剤の分子運動性に関するミュオンスピン緩和(μSR)測定では、エポキシ硬化物DGEBA/DDMの温度依存性について測定を行い、μSR緩和速度を通してエポキシ分子のβ緩和の評価が可能であることを明らかにした(図2)。

関連論文

  1. Kawano, M.; Morimitsu, Y.; Liu, Y.; Miyata, N.; Miyazaki, T.; Aoki, H.; Kawaguchi, D.; Yamamoto, S.; Tanaka, K. In-plane Movement of Isolated Poly(methacrylate) Chains on a Hydrophilic Solid Surface. Macromolecules 2024, 57(14), 6625–6633.

堀内 伸 グループ

電子顕微鏡による接着メカニズムの解明

接着界面には、分子レベルからミクロンレベルの様々なスケールの構造が含まれる[1] 。本グループでは、接着メカニズムを明らかするために、電子顕微鏡により界面構造を可視化し、界面の破壊現象を解析している[2,3] 。図1に示す走査透過型電子顕微鏡(STEM)を中心に用いて、接着界面現象を実空間3次元構造として明らかにしている。 STEM-トモグラフィーによるアルミ表面のナノ構造の3次元可視化(図2) 、EELS(Electron Energy Loss spectroscopy) 、EDX(Energy Dispersive X-ray spectrometry)による界面分析(図3) [4]による化学結合とアンカー効果の接着に対する寄与等を明らかにした[5] 。さらに、in-situで亀裂先端での破壊挙動を観察することにより(図4) 、破壊・劣化メカニズムの解明に取り組んでいる[6,7] 。

関連論文

  1. Horiuchi, S.; Terasaki, N.; Miyamae, T.  Introduction—Interfaces in Adhesion and Adhesive Bonding.  (eds) Interfacial Phenomena in Adhesion and Adhesive Bonding. Springer, Singapore. 2024.
  2. Liu, Y.; Shigemoto, Y.; Hanada, T.; Miyamae, T.; Kawasaki, K.; Horiuchi, S. Role of Chemical Functionality in the Adhesion of Aluminum and Isotactic Polypropylene, ACS. Appl. Mater. Interfaces. 2021, 13(9), 1149711506.
  3. Horiuchi, S.; Liu, Y.; Hanada, T.; Shigemoto, Y. Interphases Developed by Interfacial Reactions in Polypropylene-aluminum Joints Unveiled by Local Thermomechanical Analysis. Mater. Today Commun. 2023, 36, 106637.
  4. Horiuchi, S.; Liu, Y.; Hanada, T.; Akiyama, H. Enhancement in Adhesive Bonding of Aluminum Alloy by Steam Treatment Studied by Energy Loss Near Edge Fine Structures in Electron Energy Loss Spectroscopy. Appl. Surf. Sci. 2022, 599, 153964.
  5. Akaike, K.; Shimoi, Y.; Miura, T.; Morita, H.; Akiyama, A.; Horiuchi, S. Disentangling Origins of Adhesive Bonding at Interfaces between Epoxy/Amine Adhesive and Aluminum. Langmuir 2023, 39(30), 1062510637.
  6. Horiuchi, S.; Liu, Y.; Shigemoto, Y.; Hanada, T.; Shimamoto, K. In-situ TEM Investigation of Failure Processes in Metal-plastic Joint Interfaces. Inter. J. Adhe. Adhes. 2022, 117, PartB, 103003.
  7. Horiuchi, S.; Saito, N.; Hanada, T.; Shimamoto, K.; Akiyama, H. Failure of Adhesive Bonding Unveiled by In-situ Strain Testing by High-resolution Scanning Transmission Electron Microscopy. Disc. Mech. Eng. 2024, 3, 11.

竹中 幹人 グループ

エポキシ樹脂における撹拌時間が及ぼす構造不均一性と力学特性の相関

放射光の中角X線散乱(MAXS)法とコンピュータトモグラフィー法を組み合わせたMAXS-CT法により、エポキシ樹脂サンプルにおけるシリカナノ粒子や架橋構造の巨視的な不均一性について非破壊で調べた[1,2] 。接着剤試料は2枚のアルミニウム板を接着することで作製した。CT像から、フェニルシランで表面修飾したシリカナノ粒子を含むHDGEBA(エポキシ剤)とCBMA(硬化剤)の混合時間が短い場合、シリカナノ粒子は端の空気界面に蓄積する傾向を示した(図1, 図2) 。この不均一な分布は、硬化温度条件にかかわらず、撹拌時間を長くすることで減少した。一方、ネットワーク密度の空間分布、すなわち架橋構造も不均一性を示した(図1, 図2) 。長時間の撹拌は不均一性の抑制につながったが、完全な均一性は示さず、端部空気界面側のネットワーク密度分布は不均一となった。この分布は硬化温度が高いほど顕著になった。さらに、室温で硬化した場合には、CBMAが水和物を形成し、その結晶構造が端の空気界面に分布することが分かった。

関連論文

  1. Aoki, H.; Ogawa, H; Takenaka, M. Neutron Reflectometry Tomography for Imaging and Depth Structure Analysis of Thin Films with In-plane Inhomogeneity. Langmuir 2021, 37, 196203.
  2. Ogawa, H.; Aoki, M.; Ono, S.; Watanabe, Y.; Yamamoto, S.; Tanaka, K.; Takenaka, M. Spatial Distribution of the Network Structure in Epoxy Resin via the MAXS-CT Method. Langmuir 2022, 38(37), 1143211439.

小椎尾 謙 グループ

疲労寿命予知の加速化と低架橋エポキシ樹脂硬化物の接着特性

室温から120℃の温度範囲において、エポキシ樹脂硬化物の疲労試験を行い、応力とサイクル数の関係(S-N曲線)を取得した。各温度におけるS-N曲線をよりマスターカーブを取得することが可能であった。これより、試験温度を上昇することで長時間側の疲労寿命を予測することを可能にした(図1)。低架橋エポキシ樹脂硬化物(CER-L)として、diglycidyl ether bisphenol A(平均重合度n=1.1) とphenyl ethyl amineからなるCER-Lを用いてバルクおよびSLJを調製し、小角X線散乱(SAXS)測定に基づき、内部構造変化を評価した。CER-LのSLJ試料の引張せん断変形過程において、明確な十字のストリークが端部において顕著に観測された。これより、CER-Lにおいて、クレーズ形成を伴ったサブmmスケールの塑性変形が生じていることが明らかとなった。したがって、CER-LのSLJ試料では、接着剤層端部で発生する応力集中が塑性変形によって緩和され、界面破壊を抑制して、高い接着強度を示したと考えられる。これらの結果は、架橋密度が低いCERの場合においても、優れた接着強度を示す新しい知見であり、接着材料設計の新たな指針になる(図2) [1,2] 。

関連論文

  1. Obayashi, K.;  Kojio, K. Adhesive Properties of Low-crosslinking Density Cured Epoxy Resin, Polym. J. 2025, 57, 679–687.
  2. Obayashi, K.; Kojio, K. A Network Structure and Adhesive Properties of Low-cross-linking Density Cured Epoxy Resins, Chem. Lett. 2025, 54(3), upaf001.

小林 卓哉 グループ

接着界面のマクロスケール解析

これまでシリカナノ粒子を添加したエポキシ樹脂材料の強靭化機構は、粒子界面のはく離とそれに続く塑性ボイドの成長に支配されていると理解されてきた。本研究では、この最終的な強靭化の達成にいたる一連のプロセスを明らかにすることを目的として、き裂進展の過程を、実験と解析の両面から検討した(図1) [1] 。シリカナノ粒子を添加したエポキシ薄膜を対象とし、① 透過型電子顕微鏡によるその場観察、② 破壊基準を見積もるための分子動力学シミュレーション、③ 破壊力学に基づく有限要素解析を組み合わせた検討を実施した結果、き裂進展は、a. ナノ粒子によるき裂の停止(クラックアレスト)、b. 粒子周囲におけるマトリックスの塑性変形、c. 粒子/マトリックス界面でのはく離といった素過程から構成されることが明らかとなった。これらの素過程をシームレスに表現する有限要素解析の技術を構築し、単一のナノ粒子によるクラックアレストに起因する破壊エネルギーは、未添加エポキシの数倍に達することを示した。この、ナノ粒子の物理的障壁としての効果によって、き裂進展の速度は抑制され、粒子周囲の大域的な塑性変形が、き裂進展よりも速い速度で促進される。すなわちエポキシ/シリカナノコンポジットの強靭化は、個々のナノ粒子によるクラックアレストの持続的な発現によって実現されることを示すことができた。

関連論文

  1. Kobayashi, T.; Ogawa, K.; Maeda, R.; Wang, P.; Kubozono, T.; Yoshihara, D.; Yamamoto, S.; Yamada, S.; Tanaka, K.; Omiya, M. Quantitative Evaluation of Crack Arrest Mechanisms in Epoxy/Silica Nanocomposites. Compos. Sci. Technol. 2025, 261, 111028.

吉澤 一成 グループ

第一原理計算による接着の分子論とその応用展開

炭素繊維(CF)表面と4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(DDS)および4,4’-ジアミノジフェニルメタン(DDM)と反応させたビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)をベースとする2種類のエポキシ樹脂硬化物モデルとの接着の分子機構について、密度汎関数理論(DFT)計算を用いて研究した。CF表面はカルボキシ基で官能基化されたグラファイトのアームチェア端構造でモデル化した。図1はDDSおよびDDMで硬化したDGEBAをベースとする2種類のエポキシ樹脂硬化物モデルの相互作用解析である。DDS分子の中心にあるスルホン基の強い表面相互作用により、CF表面はDGEBA-DDM系よりもDGEBA-DDS系に対して強い親和性を示すことが分かった[1]。図2はエポキシ樹脂と熱可塑性高分子のポリ(p-フェニレンサルファイド)(PPS)の異種高分子接着界面の相互作用について、第一原理計算を用いて調べた結果である。酸化していないプリスチンのPPSおよび酸化したPPSの(100)面、(110)面、(010)面とエポキシ樹脂の接着相互作用を計算した。その結果、PPSの(110)面の接着強度が最も高く、(010)面の接着強度が最も低かった。表面酸化は接着強度を増加させ、とくに接着強度が低い表面の接着相互作用を著しく増加させることが分かった[2]。図3はチオ尿素を用いた高耐久性水中接着に関する応用研究の結果を示す。チオ尿素含有高分子は類似した構造をもつ尿素含有高分子に比較して、水和しにくく、ガラス表面と優れた水中接着性を示す[3] 。図4はMD計算およびDFT計算からアルミナ表面での水の凝集状態とそれが硬化反応に及ぼす影響についての研究結果を示す。反応前、水分子はアルミナ表面に強く吸着し、過剰な水分子を凝集させている。一部の水はエポキシ/アミン混合物に拡散し、未反応物の拡散を促進する。これにより、とくにアルミナ表面近傍において反応速度が速くなった[4] (田中PMGとの連携)。

関連論文

  1. Shrestha, A.; Sumiya, Y.; Okazawa, K.; Tsuji, Y.; Yoshizawa, K. Density Functional Theory Study of Adhesion Mechanism between Epoxy Resins Cured with 4,4′-Diaminodiphenyl Sulfone and 4,4′-Diaminodiphenylmethane and Carboxyl Functionalized Carbon Fiber. Langmuir 2024, 40(41), 2157321586.
  2. Sumiya, Y.; Kaji, R.; Yoshizawa, K. Surface Treatment of Poly(p-phenylene sulfide) and Its Impact on Adhesion of Epoxy Resin: Theoretical insights. Chem. Phys. Lett. 2024, 847, 141370.
  3. Kikkawa, K.; Sumiya, Y.; Okazawa, K.; Yoshizawa, K.; Itoh, Y.; Aida, T. Thiourea as a “Polar Hydrophobic” Hydrogen-Bonding Motif: Application to Highly Durable All-Underwater Adhesion. J. Am. Chem. Soc. 2024, 146(30), 2116821175.
  4. Yamamoto, S.; Tsuji, Y.; Kuwahara, R.; Yoshizawa, K.; Tanaka, K. Effect of Condensed Water at an Alumina/Epoxy Resin Interface on Curing Reaction. Langmuir 2024, 40(24), 1261312621.

数理統計・マテリアルズインフォマティクスグループ

久池井 茂 グループ

接着分野における 機械学習モデルの構築および実験検証 / ソフトウェアパッケージの構築

小椎尾Gが実施した疲労試験データを基に、田中G・廣瀬Gと議論を重ねながら、初期サイクルのデータから疲労寿命を予測する機械学習モデルを構築した[1] 。バルク試料の疲労寿命予測において、バルク試料での疲労試験データを訓練データとテストデータに分割し、有効性の検証も行った(図1) 。

疲労寿命の予測だけでなく疲労破壊の兆候を捉えるため、モニタリング手法の構築にも着手した。SLJ試料の疲労試験データに対して、スライド窓k近傍法などの異常検知に用いる機械学習手法を適用し、性能を評価した(図2) 。

疲労試験データの曲線フィッティングと寿命予測の機能をソフトウェアパッケージに組み込んだ。さらに、疲労寿命予測の機能だけでなく、説明変数と目的変数の両方に欠測がある場合に特化したSMRMアルゴリズムなど、廣瀬Gが構築したアルゴリズムもソフトウェアパッケージに組み込んだ(図3) 。

山田Gとの共同研究で、応力ーひずみ曲線の実験データの前処理を自動化する研究を実施した。ヤング率だけでなく、破壊靭性に対応する面積計算も全自動で実行できる(図4) 。

関連論文

  1. Taniguchi, S.; Uemura, K.; Tamaki, S.; Nomura, K.; Koyanagi, K.; Kuchii, S. Multi-Objective Optimization of the Epoxy Matrix System Using Machine Learning. Results Mater. 2023, 17, 100376.

廣瀬 慧 グループ

統計数学を用いた高精度な疲労寿命予測モデルの構築/欠損データの補完アルゴリズムの構築

本研究では、接着現象の理解とスマート接着技術の構築を目指し、高精度な疲労寿命予測を実現する統計モデルを構築した[1] 。まず、サイクルとひずみの関係を表す非線形曲線フィッティングに加え、エネルギー損失量などの物理量を説明変数として加えた新たな非線形回帰モデルを提案した。さらに、L0正則化およびL1正則化に基づくモデル選択により、予測精度の向上に寄与する物理量の選択を行った(図1, 2) 。また、入力・出力の両方に欠損があるデータに適用可能な多変量重回帰モデル ESMRM(Extended Sparse Multivariate Regression with Missing values)を、並列処理によって高速化した。加えて、数値実験および実データ解析を通じて予測精度を検証し、従来手法と比較して優れた性能を有することを確認した(図3) 。

関連論文

  1. Yoshida, W.; Hirose, K. Improvement of Prediction Accuracy by Choosing Resampling Distribution via Cross-validation. Behaviormetrika 2025, 52, 197212.

分子接着技術グループ

横澤 勉 グループ

新規硬化技術による高耐熱性樹脂の開発/耐熱性ポリアミド接着剤の開発

重縮合で得られるエンジニアリングプラスチックは優れた耐熱特性を持つが、成型加工には結晶融解温度を越えた 300 ℃ 以上の加熱を必要とする。このため低温実装可能な全芳香族性樹脂材料が求められている。当グループでは、アセチレン部位の環化三量化によってベンゼン環を構築する低温実装可能な硬化技術を開発している。昨年度は、本樹脂の耐熱物性を報告したが、今年度は①低温硬化性に優れた触媒の探索と、②本樹脂をベースポリマ―に用いた接着剤の作製・評価、を実施した (図1) 。①では、従来の触媒に変えて、化学構造の異なる触媒を利用することで、発熱のピーク温度を30 ℃ 以上低温化できることを見出した 。また、②では、樹脂を接着剤のベースポリマーに配合して評価した。この結果、鋼板同士の接着において、180 ℃ の低温硬化により、室温で約30 MPaの高強度と200 ℃雰囲気下で約20 MPa の耐熱接着性を持つ接着剤が得られた[1] 。

N-H 芳香族ポリアミドは、高分子間および被着体との多点水素結合によって接着の耐熱性と強度を上げられると期待して研究を開始し、昨年度は、N-H 芳香族ポリアミドの対照実験として N-Me ポリアミド単独重合体の接着強度を測定した結果、予想外にN-H 芳香族ポリアミド(7-8 MPa)より高強度であることを見出した(11-14 MPa) 。そこで今年度は、ポリアミドの構造、N-アルキル基、耐熱性について検討した (図2) 。その結果、昨年度のポリアミドのイソフタル酸部位をテレフタル酸に変えた PA4a5  とジアミン部位をビス(4-メチルアミノフェニル)メチレンに変えた PA4c6 は 23 ℃ で 10 MPa 以上の強度を示し、250 ℃ においても 7.2-7.7 MPa を維持する耐熱性を示した。また、プロトタイプポリアミドの N-アルキル基の効果を検討した結果、メチル基からブチル基までアルキル基を長くしても 150 ℃ における接着では、23 ℃ において高い接着強度を示した。特にブチル基においては 20 MPa の強度を示した。一方、250 ℃ における接着では、メチル基とエチル基の場合 23 ℃ の接着強度はあまり高くなかったが、メチル基の場合に 250 ℃ で 8.1 MPa、エチル基の場合に 200 ℃ で 7.3 MPa の強度を示した[2] 。

関連論文

  1. Sugiyama, K.; Iwakiri, H.; Katoh, T.; Ohta, Y.; Yokozawa, T. Highly Thermally Stable, Cross-linked, All-aromatic Polyketone from Polycyclotrimerization of Bis(ethynylketo)phenylene in Bulk. J. Polym. Sci. 2025, 63(8), 1749–1974.
  2. Katoh, T.; Takai, K.; Shirakawa, I.; Ohta, Y.; Akimoto, M.; Yokozawa, T. Heat-Resistant Strong Adhesive Consisting of Aromatic Polyamide with an Acid-Removable N-Protecting Group and a Thermal Acid Generator. J. Polym. Sci. 2025, 63(4), 948–953.

伊藤 耕三 グループ

強靭・多機能性ポリロタキサン含有エポキシ樹脂ビトリマー接着剤の開発

当研究グループでは、環動高分子や超分子などを用いたタフでしなやかな接着剤の開発とその分子的接着機構の解明を目指している[1-4] 。本年度はポリロタキサン含有エポキシ樹脂ビトリマーを用いた強靭で多機能なサスティナブル接着剤の開発をコンセプトとし、企業との連携から実施した(図1) 。昨年度までの検討で、PRをエポキシ樹脂ビトリマーに含有させることで、高い靭性や疲労特性を得ることに成功した。この樹脂を用いた接着特性評価を企業と連携し進めた。エポキシ樹脂ビトリマーは従来のエポキシ樹脂と比較し、接着強度が倍以上の27 MPaを示し、接着層の凝集破壊の前にAl基板が変形するほど強い接着性を示した(図2)。さらに、200℃加熱により、接着強度が1/13に低下し、一定の温度以上まで加熱することで易解体性も示した。解体後の基板を張り合わせて加熱することで再接着性を示し、解体前の接着強度までは戻らなかったが、50%程度の強度を保持した。さらにアルコール下で180℃加熱すると基板表面に残存した樹脂成分も迅速な除去を可能とし、被着体の再利用が容易であった(図3) 。PR添加による接着強度の向上に加え、ビトリマーの結合交換反応による多機能性を有することを明らかとした。さらにエポキシ樹脂ビトリマーは被着体界面の熱応力を効果的に緩和することで、加熱・冷却時に接着剤の剥離や破壊の要因となる反り量を50%低減することも明らかとなった(図4) 。

関連論文

  1. Enoki, T.; Hashimoto, K.; Oda, T; Ito, K.; Mayumi, K. Tough and Durable Slide-ring Ion Gels for Stretchable Electronics Leveraging Strain-Induced Crystallization of Poly (ethylene glycol). Macromolecules 2024, 57(24), 11498–11506.
  2. Uenuma, S.; Liu, D.; Liu, C.; Ando, S.; Yokoyama, H.; Ito, K. Environmentally Friendly Supramolecular Nanosheet Particles for Surface Coating. ACS Sustainable Chem. Eng. 2024, 12(52), 18600–18606.
  3. Liu, C.; Feng, S.; Uenuma, S.; Ando, S.; Yokoyama, H.; Takahara, A.; Ito, K. Control of Polymer Crystallization by Pseudo-polyrotaxane Nanosheets. Macromolecules 2024, 58(1), 451–458.
  4. Ando, S.; Ito, K. Recent Progress and Future Perspective in Slide-Ring Based Polymeric Materials. Macromolecules 2025, 58(5), 2157–2177.

大塚 英幸 グループ

自己修復性の分子骨格を利用した接着技術の実践的展開

三次元の網目構造を有する架橋高分子は、優れた力学物性を有する一方で、不溶不融であるために再成形が困難であることや、合成時に歪みが蓄積するという課題を抱えている。これらの問題を解決する手法の一つとして、近年、自己修復性の分子骨格である動的共有結合の導入が注目を集めている。当グループでは、「架橋高分子接着技術の展開」と「応力緩和技術の展開」という、接着技術における2つの挑戦的な課題に対して、これまでに開発してきた自己修復性の分子骨格を駆使して実現することを目的としてきた。セカンドステージの最終年度にあたる今年度は、自己修復性分子骨格としてビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)ジスルフィド(BiTEMPS)骨格を架橋点に有する架橋高分子に関して、可溶性の分子内架橋高分子との相互変換を繰り返し行うことができ、架橋高分子のリサイクルやトポロジカル接着への展開の可能性が示された (図1) [1] 。また後者に関しては、新たに開発したBiTEMPS骨格を有するエポキシ硬化物において、高い接着力と応力緩和特性が観測され、適切に条件を設定することで自己修復性の分子骨格に基づく再接着性を発現することが明らかとなった。また、高分子反応を活用したゴム-ゴム接着に関する新たな手法を開発することに成功した(図2) [2] 。

関連論文

  1. Tomono G.; Yokochi, H.; Takahashi, A.; Aoki, D.; Otsuka H. Direct and Reversible Transformations between Intermolecular Polymer Networks and Single-Chain Nanoparticles Based on Thermally Dissociable Bis (hindered amino) disulfide Linkages. Macromolecules 2024, 57(13), 63626369.
  2. Kotani, K.; Kitamura, Y.; Tsunoda, K.; Takahashi, A.; Otsuka H. Triazolinedione-functionalized Isoprene Rubber Composites with self-adhesion via Cross-linking with Zinc Dimethacrylate. RSC Appl. Polym. 2025, 3(2), 347360.

佐藤 絵理子 グループ

易解体性接着材料の高性能化:はく離様式の制御による接着時の高強度化

エポキシ基と反応する官能基を有するアントラセン誘導体二量体はエポキシ樹脂の脱架橋可能な硬化剤として機能すること、エポキシ基との反応性が高いアミノ基およびアミノ基とアントラセン部位の間にアルキルスペーサーを導入した(A(C2NH2)-D)はカルボキシ基を有する(A(CO2H)-D)より硬化温度を低下可能であることをこれまでに明らかにしている。これらを易解体性接着材料として用いると、解体性を維持したまま接着時の引張せん断接着強さを1.7倍に向上できることを明らかにした(図1) [1] 。更に接着条件を最適化することにより、はく離様式を制御することに成功し、接着材料の分子構造および架橋密度が同程度であっても引張せん断接着強度を2.8倍に向上可能なことを見いだした。

関連論文

  1. 香庄揮一, 田野絹香, 佐藤絵理子, 大津理人, 有田和郎, アミノ基含有アントラセン二量体を脱架橋可能な硬化剤として用いるエポキシ硬化物の合成と易解体性接着材料への応用. ネットワークポリマー論文集 2025, 46(2), 6777.

佐藤 浩太郎 グループ

機能性バイオベース接着剤に向けた植物由来カテコール基含有物質の化学変換

我々はこれまでに、植物由来のカフェ酸からカテコール基をもつスチレン系モノマーを合成し、このモノマーから石油由来原料の精密重合の知見を活かして接着機能が期待されるカテコール基をもつポリマーが得られることを明らかにしてきた。特に得られるカテコールポリマーをプライマーとして利用することで、従来では接着力のないアルミニウム基板に対しても接着力を示すことを明らかにした(図1) [1] 。カテコール保護基として、エステル基で保護されたビニルカテコールモノマーについて、リビング重合を見出すとともに、既存の接着剤のベースポリマーであるアクリル酸エステルとの共重合についても達成し、選択的かつ実用的な脱保護を明らかにし[2] 、この脱保護の手法を用いて、解析・MIグループと連携して、エポキシ系接着剤のスマートなバイオベース接着への可能性も示している[3] 。これらの知見をもとにさらに重合技術を深化することで、より高度に構造が制御されたポリマーの開発を行なっている。例えば表面開始重合によりカテコール基による基盤の改質などにも成功した(図2) [4] 。またこの技術を応用し、ジエン系モノマーへのカテコール基の導入、ブロック共重合体の合成などへと研究を展開している(図3)。このような機能性官能基をもつ天然由来モノマーの精密高分子合成により、バイオベース化された更なる革新的なスマート接着技術を構築し、解析・MIグループとの連携をさらに推進し、その接着機構を明らかにすることも目指している。

関連論文

  1. Kubo, T.; Bito, Y.; Mori, S.; Aoki, H.; Satoh, K. Development of a Bio-Based Adhesive by Polymerization of Boc-Protected Vinyl Catechol Derived from Caffeic Acid. RSC Sustain. 2025, 3(4), 1714–1720.
  2. Tanizaki, S.; Kubo, T.; Satoh, K. Novel Bio-Based Catechol-Containing Copolymers by Precision Polymerization of Caffeic Acid-Derived Styrenes Using Ester Protection. Macromol. Chem. Phys. 2022, 223, 2100378.
  3. Chu, C.-W.; Zhang, Y.; Kubo, T.; Tanizaki, S.; Kojio, K.; Satoh, K.; Takahara, A. Adhesion Promoting Copolymer of Acetate-Protected Vinyl Catechol with Glycidyl Methacrylate: Unraveling Deprotection, Adsorption, and Adhesion Behaviors on Metal Substrates. ACS Appl. Polym. Mater. 2022, 4, 3687–3696.
  4. Guo, R.; Tanizaki, S.; Nabae, Y.; Aoki, H.; Kubo, T.; Satoh, K. Photocontrolled RAFT Polymerization for the Preparation of Catechol-Functionalized Surfaces. J. Polym. Sci. 2025, 63(5), 1108–1113.

 


次世代接着技術社会実装戦略グループ

目代 武史 グループ

次世代接着技術の社会実装過程における産業構造変化に関する研究

第一に、開発技術の社会実装(事業化)に向けたシナリオ構築を行った。接着技術の用途の一つとして、自動車用リチウムイオンバッテリーケースを対象に事業性調査を行った。民間の調査によると、BEV用リチウムイオンバッテリーのリユース/リサイクルは、2030年までに130億ドルの市場に成長し、2040年にはさらに大幅に拡大することが見込まれる。バッテリーのリユースのためには、バッテリーを安全にきれいに解体する必要があり、易解体性接着剤への潜在的需要があることが分かった。他方で、バッテリー解体は非常に労働集約的であり、多大なスペースを要することもあり、使用済みバッテリーの回収量の処理に多大な資源を要する。他方で、バッテリーのケミカルリサイクルは、資本集約的で大量処理に向いている。バッテリーを解体せずにシュレダーにかけることから、接着剤の易解体性は不要である。すなわち、単に市場規模の推定や技術単独の優位性のみならず、バッテリーリサイクルのビジネスモデルのあり方次第で、接着技術の事業ポテンシャルが大きく左右されることが明らかになった。

第二に、技術が持つ可能性(機能、性能、信頼性等)と顧客/社会が求める価値とをつなぐロジックを検討し、市場分析ならびに競合技術/競合企業分析を行う枠組みを検討した(図1) 。開発中の当該技術が発揮する機能性や性能は、顧客/社会が解きたい課題の解決に貢献するときに顧客価値となる。当該技術が解き得る課題の先には、さらに上位課題が存在する。課題はしばしば階層構造を成し、各階層において代替的技術が存在する。上記のリチウムイオンバッテリーケースの事例にもみられるように、当該技術の事業化においては、直接の代替技術のみならず、異なる課題階層に属する代替技術も考慮すべきである。そこで、開発技術の価値分析および競合分析を行うためのラダーモデル(図2)を構築した。

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