研究成果

研究成果

2022年度


 

マルチスケール解析グループ

田中 敬二グループ

接着現象の理解 / 接着寿命の支配因子の理解と制御

和周波発生(SFG)顕微鏡観察に基づき、ライン&スペース構造を有するポリメタクリル酸メチル(PMMA)に熱処理を施した際の局所配向変化を捉えることに成功した(図1)。長い分子鎖から調製し、表面に多くのループ構造を有するフィラー粒子を添加したフィルムは、短い鎖からなるそれと比較してよく伸びることを示した[1] (図2)。高加速寿命試験装置を用いて接着界面の湿熱劣化を行い、界面への水分子の収着を背面反射中性子反射率(NR)測定に基づき評価した。収着量は、親水性界面近傍では、処理時間に伴い増加したが、疎水性界面では変化しなかった(図3)。エポキシ樹脂の不均一性発現メカニズムをフーリエ変換赤外分光測定と粗視化分子動力学計算に基づき評価した[2]。低温では欠陥の少ないネットワークが形成されるの対し、高温では内部に空隙や未反応物を残したネットワーク構造となることが明らかになった(図4)。エポキシ樹脂を296、323および353 Kでプレ硬化後、ポスト硬化し(ER296,ER323,ER353)、ノッチを入れて伸長した試料を走査型電子顕微鏡(SEM)観察測定に基づき評価した[3]。クラックは高温ほど長く、系が不均一なほどクラックが容易に発生・進展した(図5)。マイクロビーム広角X線散乱測定を行い、ノッチ先端からの距離( d )と見かけの配向関数( f )を求めた結果、f 値はプレ硬化温度が高いほど大きく、系が不均一なほど、ノッチ近傍での網目の変形が大きいことが明らかになった(図6)。

関連論文

  1. Morimitsu, Y.; Matsuno, H.; Oda, Y.; Yamamoto, S.; Tanaka, K. Direct Visualization of Cooperative Adsorption of a String-like Molecule onto a Solid, Sci. Adv. 2022, 8(41), eabn6349.
  2. Yamamoto, S.; Ida, R.; Aoki, N.; Kuwahara, R.; Shundo, A.; Tanaka, K. Formation Mechanism of a Heterogeneous Network in Epoxy Resins. Macromolecules DOI: 10.1021/acs.macromol.3c00411.
  3. Shundo, A.; Aoki, M.; Wang, P.; Hoshino, T.; Yamamoto, S.; Yamada, S.; Tanaka, K. Effect of a Heterogeneous Network on the Fracture Behavior of Epoxy Resins. Macromolecules DOI: 10.1021/acs.macromol.3c00341.

西野 孝 グループ

高分子接着界面のナノラマン散乱による解析

顕微ラマン分光解析[1]により,非晶高分子同士のポリメタクリル酸メチル(PMMA)とポリカーボネート(PC)の熱圧着界面の二次元評価を実施し,熱圧着時間変化に伴う界面構造変化の可視化を図1のように試みた。図1には,PCのベンゼン環に由来するラマンバンドのピークでマッピングした界面付近の2次元像を示した。熱圧着時間に依存して,界面の領域でPC成分の分布が広がるとともに,勾配が緩やかになっていることが明らかとなった。

また,リサイクルフィラー複合材料における高分子マトリックス/フィラー界面の剥離の様子を引張ひずみ印加時の顕微XCT測定により評価した。引張ひずみ印加時に,き裂先端の進展か確認されるとともに,き裂から離れた領域での充てんフィラーである炭素繊維の末端で空隙が発生していた。この空隙の発生が,リサイクルフィラー複合材料の強度低下の要因であることを明らかにした。

関連論文

  1. Matsumoto, T.; Shimizu, Y.; Nishino, T., Analyses of Adhesion Interphase of Isotactic Polypropylene Using Hot Melt Polyolefin Adhesives, Macromolecules 2021, 54, 7226-7233.

初井 宇記 グループ

低損傷放射光顕微X線マルチスケールイメージング技術の開発

接着界面の化学状態解析をマルチスケールで実現するため、放射光軟X線による複合材料接合界面可視化装置の開発を行っており[1]、本研究において20 nm spacingを解像できる撮像能力を実現した。軟X線では弱い水素結合であるOH···π相互作用を観測できることを示しているが、この手法を接着系に適用したところ、熱硬化性エポキシ接着剤ビスフェノールA型エポキシ接着剤(DGEBA-DDS)と熱可塑性母材のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)との接着界面について、接着剤中の破壊(region Ⅰ)、母材破壊(図2 region II)、および界面破壊(region III)が混在している様子を判別することができ、さらにこれらの領域をマッピングできることを示した[3]。最近では炭素繊維強化プラスチック系の実用接着材の接着界面についても顕微観察に成功している。

関連論文

中嶋 健 グループ

シリカ充塡エポキシ樹脂の界面のナノスケール力学物性計測

エポキシ樹脂およびシリカ充塡エポキシナノコンポジットの硬化反応過程で生じるナノスケール不均一構造を、ナノ触診原子間力顕微鏡(AFM)およびナノレオロジーAFMを用いて観察し、1stステージで得た不均一構造発現メカニズム解明[1]の更なる深化を図った。ナノコンポジットの弾性率像にはフィラー、エポキシマトリックスおよびそれらの界面という、異なる応答を示す領域が観察され、界面領域の弾性率はバルク領域の弾性率値よりも4~5倍小さくなっていた。これは界面領域に形成されたエポキシネットワークが、フィラー近傍での濃縮効果によってバルク領域に比べて相対的に低い架橋密度を示していることを意味している。さらにこの観察結果とバルクのコンポジット弾性率との相関についても議論した。界面の効果を考慮しない通常のHalpin-Tsai式ではコンポジット弾性率を過大評価してしまうが、界面の厚みと弾性率を考慮できる修正式ではバルクの測定結果をほぼ完全に再現することに成功した。界面というnmオーダーの厚みの領域の情報を得ることができるAFMならではの成果である[2]。さらにナノレオロジーAFMによってエポキシマトリックスと界面に分離して、ナノ粘弾性の温度分散を計測することに成功した。

関連論文

  1. Nguyen, H.K.; Aoki, M.; Liang, X.; Yamamoto, S.; Tanaka, K. Nakajima, K. Local Mechanical Properties of Heterogeneous Nanostructures Developed in a Cured Epoxy Network: Implications for Innovative Adhesion Technology. ACS Appl. Nano Mater. 2021, 4, 12188-12196.
  2. Nguyen, H.K.; Shundo, A.; Liang, X.; Yamamoto, S.; Tanaka, K. Nakajima, K. Unraveling Nanoscale Elastic and Adhesive Properties at the Nanoparticle/Epoxy Interface Using Bimodal Atomic Force Microscopy. ACS Appl. Mater. Interf. 2022, 14, 42713-42722.

山田 淳 グループ

電子顕微鏡を用いた接着界面の構造評価

ナノメートルスケールの表面凹凸構造を付与したアルミニウム金属とエポキシ系接着剤の界面引張破壊機構について、走査型電子顕微鏡(SEM)により評価解析するための技術開発を進めた。その過程で、SEM測定において電子線照射の影響を検討するとともに、引張破壊プロセスを薄膜試料とバルク試料とで比較検討するための技術開発を進めた。両試料での応力-変位曲線の相関について解析を進めている。

一方、ナノコンポジット材料におけるフィラー/マトリクス界面の接着状態や材料の力学特性をナノ~マイクロの時空間スケールで動的に観測するための透過型電子顕微鏡(TEM)システムを構築しており、引張挙動の数値解析も行ってきた[1]。さらに、単一粒子近傍の亀裂進展が解析可能な高精細画像を得るための装置改善を実施し、電子線照射の影響を調べつつ、サイズ(100 nm)の揃ったシリカフィラー含有エポキシナノコンポジットの薄膜試料について、シリカ粒子/エポキシ界面近傍の亀裂挙動を単一粒子レベルで観測可能な条件を構築した。また、表面修飾の異なる二種類のシリカ粒子について、コンポジット薄膜の引張破壊過程を比較検討し、一部ではあるが有意な差が認められた。

関連論文

  1. Wang, P.; Maeda, R.; Aoki, M.; Kubozono, T.; Yoshihara, D.; Shundo, A.; Kobayashi, T.; Yamamoto, S.; Tanaka, K.; Yamada, S. In Situ Transmission Electron Microscopy Observation of the Deformation and Fracture Processes of an Epoxy/Silica Nanocomposite. Soft Matter 2022, 18, 1149-1153.

青木 裕之 グループ

高湿度環境下でのエポキシ接着剤界面の構造解析

高湿度条件下におけるエポキシ接着剤と被着体との界面構造を評価した。中性子は水素原子と重水素原子を識別することが可能なため、重水による高湿度環境中で中性子反射率測定を行うことで、接着剤層に吸収した水分子の空間分布を直接評価することができる [1]。図1はシリコン基板上に塗布したHDGEBA/CBMAを乾燥条件下及び重水による湿度85%の高湿度条件下において測定した中性子反射率プロファイルである。Q > 1 nm-1で見られる反射強度の変化は、高湿度下でエポキシ接着剤は雰囲気から水を吸収したことを示唆している。図2は反射率プロファイルの解析によって得られた接着界面近傍の水の体積分率である。接着剤バルク中の水は2%以下であるのに対して、被着体との界面近傍1 nm程度の領域では約50%を水が占めることが示された。さらに、このような水の偏析が接着力に影響を与えることを明らかにした。

関連論文

  1. 青木裕之, 中性子反射率法を用いた接着界面の構造解析, 接着の技術, 2023, 42, 16-20.

堀内 伸 グループ

電子顕微鏡による接着メカニズムの解明

接着界面には分子レベルからミクロンレベルの様々なスケールの構造が含まれる。接着メカニズムを理解するためには、界面構造を可視化し、さらに、界面の破壊現象[1]を精密に解析する必要がある。本グループでは、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を中心に用いて、接着界面現象を実空間3次元構造として明らかにし、さらにEELS(Electron Energy Loss spectroscopy)、EDX(Energy Dispersive X-ray spectrometry)による局所分析により、分子間相互作用を明らかにすることを目的としている[2]。これまでに、アルミ基板と熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)[3]やエポキシ樹脂との接着界面現象[4]を明らかにしてきた。さらに、本界面解析手法を接着界面の耐久性評価に適用し、接着界面の劣化現象の解明に取り組んでいる。

関連論文

  1. Lyu, L.; Ohnuma, Y.; Shigemoto, Y.; Hanada, T.; Fukada, T.; Akiyama, H.; Terasaki, N.; Horiuchi, S. Toughness and Durability of Interfaces in Dissimilar Adhesive Joints of Aluminum and Carbon-Fiber-Reinforced Thermoplastics. Langmuir, 2020, 36, 14046-14057.
  2. 堀内伸, 電子顕微鏡による接着界面の可視化と解析,日本接着学会誌, 2019, 55(10), 374-382.
  3. Liu, Y.; Shigemoto, Y.; Hanada, T.; Miyamae, T.; Kawasaki, K.; Horiuchi, S. Role of Chemical Functionality in the Adhesion of Aluminum and Isotactic Polypropylene. ACS. Appl. Mater. Interfaces 2021, 13, 11497-11506.
  4. Horiuchi, S.; Liu, Y.; Hanada, T.; Akiyama, H. Enhancement in Adhesive Bonding of Aluminum Alloy by Steam Treatment Studied by Energy Loss near Edge Fine Structures in Electron Energy Loss Spectroscopy, Appl. Sur. Sci., 2022, 599, 153964 .

竹中 幹人 グループ

エポキシ樹脂におけるナノ粒子/架橋構造の不均一性評価

放射光の中角X線散乱(MAXS)法とコンピュータトモグラフィー法を組み合わせたMAXS-CT法により、接着剤の補強材であるナノ粒子と架橋構造の不均一性評価を行った。試料として、シリカ粒子を含有して硬化処理を施したエポキシ試料を作製し、硬化過程における時分割多MAXS-CTにより測定した。本研究結果から、シリカ粒子の分布変化及び架橋構造の形成過程を個々に可視化することに成功した。

関連論文

  1. Aoki, H.; Ogawa, H; Takenaka, M. Neutron Reflectometry Tomography for Imaging and Depth Structure Analysis of Thin Films with In-Plane Inhomogeneity. Langmuir 2021, 37, 196-203.
  2. Ogawa, H.; Aoki, M.; Ono, S.; Watanabe, Y.; Yamamoto, S.; Tanaka, K. and Takenaka, M. Spatial Distribution of the Network Structure in Epoxy Resin via the MAXS-CT Method Langmuir 2022. 38, 11432-11439.

小椎尾 謙 グループ

単純重ね合わせ継手(SLJ)の接着剤層の変形機構と疲労挙動

ポリウレタン接着剤を用いて単純重ね合わせ継手を調製し、その場小角および広角X線散乱測定に基づき、引張せん断変形過程における凝集構造変化を解明した。(図1)[1]

種々の架橋密度を有するエポキシ系接着剤からなるバルクおよびSLJ試料において、引張および引張せん断試験を行い、接着剤と被着体の界面相互作用がSLJの引張せん断強度に及ぼす影響を解明した。また、接着疲労挙動を評価した結果、引張せん断強度と類似した傾向が観測された。(図2)[2]

関連論文

  1. Obayashi, K.; Kamitani, K.; Chu, C.-W.; Kawatoko, R.; Cheng, C.-H.; Takahara, A.; Kojio, K., Deformation Behavior of Polyurethane Adhesive in the Single-Lap Joint Based on the Microbeam X-ray Scattering Method, ACS Appl. Polym. Mater. 2022, 4, 5387.

小林 卓哉 グループ

接着界面のマクロスケール解析

フィラー / マトリックスからなる接着界面のマルチスケール解析手法の開発を目的として、最新のTEM可視化による破壊挙動の観察と、分子シミュレーションによるミクロ力学特性の定量化の知見を、構造FEMのなかにダイレクトに持ち込む手順を具体化した。

硬化プロセスに依存するエポキシ樹脂のミクロ・ナノレベルの力学特性の定量評価は、化学の面からも機械工学の面からもこれまで困難とされてきたが、マルチフィジックスの視点から現象に切り込むツールを実現した点において従来の試みと一線を画する。

またき裂進展など、製品の信頼性に直結する破壊力学的なニーズに対応するため、電子顕微鏡下のデジタル画像相関法(DIC)を含む可視化結果[1]を背景とし、国内に市場展開されている汎用有限要素法ソフトウェアを用いたき裂進展解析のツール化を進めている。

関連論文

  1. Wang, P.; Maeda, R.; Aoki, M.; Kubozono, T.; Yoshihara, D.; Shundo, A.; Kobayashi, T.; Yamamoto, S.; Tanaka, K.; Yamada, S. In Situ Transmission Electron Microscopy Observation of the Deformation and Fracture Processes of An Epoxy/Silica Nanocomposite, Soft Matter 2022, 18, 1149-1153.

吉澤 一成 グループ

量子化学計算に基づく接着界面相互作用の微視的理解

ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル(DGEBA)と硬化剤からなるエポキシ樹脂の硬化反応をシミュレーションし、分子動力学(MD)計算から大規模接着界面構造を求めた(図1)。得られた接着界面の微視的構造に着目し、エポキシ樹脂の有する各官能基が接着相互作用に与える寄与を量子化学計算に基づいて見積もった。その結果、DGEBAの有するヒドロキシ基とエーテル部位が大きく寄与していることを明らかにした[1]。

接着面に平行な力がかけられたときのせん断接着力[2]、および接着剤が端点側から引き剝がされたときのはく離接着力[3]を量子化学計算に基づいて見積もる方法を独自開発し、種々の表面に対するエポキシ樹脂の接着力を総合解析した。金属銅表面に対するせん断接着力は接着面に対し平行に近づく方向(θ → 0°)に変位するとき減少し、摩擦力に類似した挙動を示すことを明らかにした(図2)。シリカ表面に対するはく離接着力は、エポキシ樹脂の力点が表面から剝がれる過程と垂直に立ち上がったエポキシ樹脂が表面から離れる過程のそれぞれで極大となった(図3)。その最大値は引張接着力の約4割であり、エポキシ樹脂がはく離方向に弱い傾向を定性的に再現できた。

関連論文

  1. Nakamura, S.; Yamamoto, Y.; Tsuji, Y.; Tanaka, K.; Yoshizawa, K. Theoretical Study on the Contribution of Interfacial Functional Groups to the Adhesive Interaction between Epoxy Resin and Aluminum Surface. Langmuir 2022, 38, 6653-6664.
  2. Sumiya, Y.; Tsuji, Y.; Yoshizawa, K. Peel Adhesion Strength between Epoxy Resin and Hydrated Silica Surface: A Density Functional Theory Study. ACS Omega 2022, 7, 17393-17400.
  3. Sumiya, Y.; Tsuji, Y.; Yoshizawa, K. Shear Adhesive Strength between Epoxy Resin and Copper Surfaces: A Density Functional Theory Study. Phys, Chem. Chem. Phys. 2022, 24, 27289-27301.

 


数理統計・マテリアルズインフォマティクスグループ

久池井 茂 グループ

接着分野における 機械学習モデルの構築および実験検証 / ソフトウェアパッケージの構築

連携企業に提供頂いた、エポキシを含む配合と物性情報からなるデータセットを用いて、最適な配合提案のためのモデル構築および逆解析を実施した。具体的には、エポキシ、反応剤、アルコール、硬化剤、その他添加物を任意の配合で混ぜ合わせた配合データから材料の物性を予測する機械学習モデルを構築した(図1参照)。このモデルを活用した逆解析を実施し、トレードオフの関係にある材料の特性条件を満たす配合を提案した。

これまでMI(マテリアルズインフォマティクス)の有効性を明らかにしてきたことを活かし、更なる発展のために接着分野の現場で活躍する方々が機械学習手法等での解析を容易に行える環境構築を目指し、ソフトウェアパッケージを開発した(図2参照)。今後は、疲労試験の初期サイクルのデータから寿命を予測する機械学習モデル、樹脂・CFRP界面について、劣化も含めて接着強度の予測をする機械学習モデルを構築する。

関連論文

  1. Taniguchi, S.; Uemura, K.; Tamaki, S.; Nomura, K.; Koyanagi, K.; Kuchii, S. Multi-Objective Optimization of the Epoxy Matrix System Using Machine Learning. Results in Materials 2023, 17, 100376.

廣瀬 慧 グループ

統計数学を用いた高精度な疲労寿命予測モデルの構築/欠損データの補完アルゴリズムの構築

本研究では、接着現象の理解とスマート接着技術の構築を目指し、高精度な疲労寿命予測を行うための統計数学を構築した。まず、正則化法・スパースモデリングを用いたアルゴリズムを用いることにより、応力ひずみ曲線のクラスタリングを実現し、曲線同士のばらつきを抑えた。次に、様々な線形・非線形回帰の手法を用いて疲労寿命予測およびその区間構築を行った。その結果、初期のサイクルにおける応力の情報を多く入れることによって予測精度が向上することがわかった。また、ステージ1で構築した、欠損データに対応したスパースモデリング[1,2]を、入力・出力の両方に欠損がある場合に適用できるように拡張した。

関連論文

  1. Teramoto, K.; Hirose, K. Sparse Multivariate Regression with Missing Values and its Application to the Prediction of Material Properties. Numer. Methods Eng. 2022, 123(2), 530-546.
  2. Hirose, K. Penalized Likelihood Approach in Multivariate Regression with Missing Values and its Application to Materials Properties Prediction. Statistics and Mathematical Modelling in Combination (SMMC 2022).

 


分子接着技術グループ

横澤 勉 グループ

新規硬化技術による高耐熱性樹脂の開発/ポリアミド・ポリエステル接着剤の開発

重縮合で得られるポリエーテルケトンやポリエーテルスルホン等のエンジニアリングプラスチックを接着技術に適用するため同一骨格を持つポリマーを三次元架橋化する技術を検討し、高耐熱性樹脂を開発した。触媒を用いると 110-130 oCと比較的低温で架橋反応が進行した。また無触媒でも 180-200 oC で架橋反応が進行した。得られた樹脂の5% 重量損失は 440-460 oCであり、十分な耐熱性を有していることが明らかになった。

N-H 芳香族ポリアミドは、高分子間および被着体との多点水素結合によって接着の耐熱性と強度を上げられることが期待できる。しかし、溶解性が低いことから酸または加熱によって除去できる tert-ブトキシカルボニル (Boc) 基を持つポリアミドを合成し、熱酸発生剤 (TAG) 存在下、加熱によってN-H 芳香族ポリアミドを被着体間で発生させた (図1)。その結果、N-H 芳香族ポリアミドの Tg より高温の 250 oC で接着すると、表面処理軟鋼板とステンレスが 7-8 MPa の破断強度を示した。そこで芳香族ポリアミドの Tg を低下させれば、より低温でも高い強度で接着できると考え、N-Me アミドとの共重合体を種々合成し、接着強度を評価した。その結果、N-Me ジアミンを 70% 含むポリアミドが 150 oC における接着でも 6.83 MPa の強度を示した。

ポリエステル接着剤は、ポリエステル基板とエステル交換反応によって強度の高い共有結合接着が行えることを期待していたが、ポリエステル接着剤自体が鎖状高分子であるためか十分な強度が無く、凝集破壊が起きた。そこで、ポリエステルをエポキシ基によって三次元架橋化して強度を上げることを目的に側鎖にエポキシ基を持つポリエステルの合成を検討した。tert-BuOK を触媒とするジオールギ酸エステルとジカルボン酸メチルのエステル-エステル交換重縮合 [1,2] を高減圧度、短時間で行うと、分子量 4500 ほどの可溶性ポリエステルが得られた(図2)。

関連論文

  1. Katoh, T.; Ogawa, M.; Ohta, Y.; Yokozawa, T. Synthesis of Polyester by Means of Polycondensation of Diol Ester and Dicarboxylic Acid Ester through Ester-Ester Exchange Reaction. J. Polym. Sci. 2021, 59, 787-797.
  2. Katoh, T.; Saso, M.; Ohta, Y.; Yokozawa, T. Synthesis of Polycarbonates and Polycarbonate/Polyester Copolymers through Ester-Carbonate Exchange Reaction.  Polym. J. 2022, 54, 1063-1069.

伊藤 耕三 グループ

エポキシ樹脂の局所歪解析/ポリロタキサンを用いたエポキシビトリマーの強靭化

当研究グループでは、環動高分子や超分子などを用いたタフでしなやかな接着剤の開発とその分子的接着機構の解明を目指している。本年度はポリロタキサン添加による効果を発揮しやすいエポキシ樹脂の架橋構造を把握するために、エポキシ樹脂単体の架橋ネットワーク構造が一軸延伸下における局所歪が破壊に与える影響について引張負荷を与えた状態でのデジタル画像相関法を用いて解析を進めた。鎖延長剤の導入により、架橋点間距離を一部延長し、架橋密度を下げることで、応力集中部位で微細なクラック発生を伴う不均一な変形が生じることを明らかとした。また、エポキシビトリマーにポリロタキサンを添加し、結合交換により架橋ネットワークに導入することで材料の硬さを変えることなく強靭性を向上させることが可能であることを見出した。

大塚 英幸 グループ

自己修復性の分子骨格を利用した接着技術の実践的展開

架橋高分子は優れた力学物性、耐クリープ性を有する一方で、不溶不融の性質ゆえリサイクル困難であるという問題点がある。この問題を解決する手法の一つとして動的共有結合の導入が注目を集めている。近年では、可逆性粘着剤への応用や新しい接着系に向けた結合交換特性の緻密な制御が求められており、結合種のみならず高分子の材料設計の重要性が高まりつつある[1,2]。結合交換特性を決定づける新たな要素の探索を目的として、動的共有結合ユニットであるビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)ジスルフィド (BiTEMPS)骨格を架橋点に有する架橋高分子において、架橋剤のスペーサー長が力学物性および結合交換反応に及ぼす影響を調査した結果、大きな影響を与えることを明らかにした(図1)。

また、BiTEMPS骨格で連結された分子内架橋高分子(Single-chain Nanoparticles, SCNP)の開発に成功し、BiTEMPS骨格を有するSCNPを加熱すると、架橋高分子への変換でき、接着技術に応用できる可能性があることを明らかにした(図2)。

佐藤 絵理子 グループ

接着時の高強度化と界面剥離による解体を目指した新規易解体性接着材料の設計

当グループが独自に開発した非分解型(解体時に揮発性有機化合物の排出を伴わない)易解体性接着材料[1]の性能向上を目的とし、モデル反応を用いることにより硬化反応の詳細な解析を行い、接着時および解体時に進行する反応を明らかにした。この結果に基づき、接着時の接着強度向上および解体性向上の観点から硬化剤の設計および合成を行った。新たに合成した硬化剤を用いることにより、解体性を維持したまま接着時の接着強度を1.5倍に向上させることに成功した(図1)。

エポキシ樹脂に適用可能な分解性ユニットについても[2][3]、接着時の硬化温度の拡大および接着強度向上の観点から開発を進めている。

関連論文

  1. 佐藤絵理子,特許第7066246号(令和4年5月2日)/ PCT/JP2021/017543.
  2. Tano, K.; Sato, E. Synthesis and Dissociation Behavior of Degradable Network Polymers Consisting of Epoxides and 9-Anthracene Carboxylic Acid Dimer. Chem. Lett. 2021, 50, 1787-1790.
  3. 佐藤絵理子,特許第7005089号(令和4年1月7日)/ PCT/JP2021/017653.

佐藤 浩太郎 グループ

機能性接着剤に向けた官能基含有植物由来モノマーの重合反応に関する研究

植物由来桂皮酸誘導体から接着機能が期待されるカテコール基などをもつスチレン系モノマーへスケールアップにも対応できる合成手法を明らかに、種々の官能基をもつバイオベース経皮酸誘導体へ適用可能であることを明らかにしてきた[1] 。最近、保護基を検討し、リビング重合によりビニルカテコールユニットを含有した種々の特殊構造ポリマーが合成できることを明らかにした[2]。 得られたポリビニルカテコールを含有したポリマーは種々の接着剤と組み合わせることで、金属接着強度の大幅な向上が得られることをアカデミアや共同連携機関との共同研究により明らかにした [3] 。引き続き、機能性官能基をもつ天然由来モノマーの精密高分子合成により、バイオベース化された更なる革新的なスマート接着技術を構築することを目指す。

関連論文

  1. Takeshima, H.; Satoh, K.; Kamigaito, M. Bio‐based Vinylphenol Family: Synthesis via Decarboxylation of Naturally Occurring Cinnamic Acids and Living Radical Polymerization for Functionalized Polystyrenes. J. Polym. Sci. 2020, 58, 91-100.
  2. Tanizaki, S.; Kubo, T.; K. Satoh,.; Satoh, K. Novel Bio-Based Catechol-Containing Copolymers by Precision Polymerization of Caffeic Acid-Derived Styrenes Using Ester Protection. Macromol. Chem. Phys.2022, 223, 2100378.
  3. Chu, C.-W.; Zhang, Y.; Kubo, T.; Tanizaki, S.; Kojio, K.; Satoh, K.; Takahara, A. Adhesion Promoting Copolymer of Acetate-Protected Vinyl Catechol with Glycidyl Methacrylate: Unraveling Deprotection, Adsorption, and Adhesion Behaviors on Metal Substrates. ACS Appl. Polym. Mater. 2022, 4, 3687-3696.

 


次世代接着技術社会実装戦略グループ

目代 武史 グループ

接着剤におけるオープン&クローズ戦略の評価とオープン・イノベーション分析

ステージ2以降の接着剤技術の社会実装戦略を、(1)価値創造プロセスとしての「オープン・イノベーション(OI)」と(2)価値獲得の仕組みとしての「オープン&クローズ戦略」に整理した。

本研究では、先行研究を踏まえ、後者のオープン&クローズ戦略を自社が強みとするコア領域は知財でおさえ他社に使わせない一方、用途を広げる領域では一定のコントロールのもと他社に使用させる戦略と定義した。この戦略の採用状況を把握するため、オープン性指標(開放特許/総取得特許=開放特許/コア特許×コア特許/総取得特許)を作成した。このうち、コア特許は企業が継続的に出願し、かつ前方引用の多い特許の技術領域とし、開放特許は特許の譲渡状況により測定した。米国の知財データベースPatent Assignment Searchで分析した結果、下図に示すように、米国の大手接着剤メーカーは、他社からの特許の取得も他社への譲渡も相対的に多いが、欧州メーカーは少ない傾向にあることが示された。

次に、前者のOI戦略を定量的に分析する方法の構築に取り組んだ。具体的には、特許の後方引用および前方引用のネットワークにおける当該特許の媒介的位置に着目し、引用が特定の技術領域で完結するケース(クローズド・イノベーション)と複数の技術領域を跨いで引用するケース(OI)を識別する方法である。2022年度は概念枠組みの構築ならびに特許データセットの作成を進めており、次年度以降実証分析に取り組む予定である。関連論文

  1. 目代武史(2022)「オープン&クローズ戦略の有効性検証に向けた予備的研究:構造用接着剤の特許引用ネットワークの分析」『AAOS Transactions』11(1), 53-58.
  2. 目代武史「オープン&クローズ戦略の有効性検証に向けた予備的研究:構造用接着剤の特許引用ネットワークの分析」2022年度組織学会研究発表大会、2022年6月4日.
  3. Mokudai, T. “Innovation Dynamics in Car Production Technology: Network Analysis of Structural Adhesives,” 30th International Colloquium of Gerpisa, 2022年6月15日.
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