2019年度

研究成果

2019年度


 

マルチスケール解析グループ

田中 敬二グループ

エポキシ樹脂[1]と銅の界面において、アミンが偏析することをX線光電子分光(XPS)により確認し[2]、そのメカニズムを分子動力学(MD)計算により明らかにした[3]。銅表面近傍のエポキシ-アミン混合物のダイナミクスを調べた結果、エポキシに比べて分子サイズの小さなアミンは、エントロピー駆動による偏析を示すことが分かった。アミンの偏析により、等量混合比からずれることで、硬化反応後において、未反応のアミンが界面近傍に残存することも確認された。

エポキシ-アミン混合物の界面におけるアミンの偏析の様子(反応前)

関連論文

  1. Aoki, M.; Shundo, A.; Kuwahara, R.; Yamamoto, S.; Tanaka, K. Mesoscopic Heterogeneity in the Curing Process of an Epoxy-Amine System. Macromolecules 2019, 52, 2075-2082.
  2. Aoki, M.; Shundo, A.; Okamoto, K.; Ganbe, T.; Tanaka, K. Segregation of an Amine Component in a Model Epoxy Resin
    at a Copper Interface. Polym. J. 2019, 51, 359−363.
  3. Yamamoto, S.; Kuwahara, R.; Aoki, M.; Shundo, A.; Tanaka, K. Molecular Events for an Epoxy-Amine System at a
    Copper Interface. ACS Appl. Polym. Mater. 2020, 2, 1474-1481.

西野 孝 グループ

ポリプロピレンとオレフィン系接着剤ラマン分光による接着界面解析

ラマン分光での熱圧着時の界面の構造変化評価や微細領域での分子構造の評価のための測定評価法の構築と接着過程での界面構造評価に注力した。熱圧着過程においての接着界面厚みの増大を捉えることに成功した。さらに,微細領域での分子構造の評価として,界面での結晶化度の場所依存性を評価した。界面領域における結晶化度は,界面の構成成分の変化とは異なる分布を示していることが確認できた。

ラマン分光における評価システムと熱処理時間と界面厚みの関係性

初井 宇記 グループ

軟X線による複合材料接合界面可視化装置の開発

接着剤を構成する軽元素や官能基を区別した化学状態に関する知見を与える軟X線を用い、接着界面の物理的・化学的情報のnmオーダー可視化による接着機構の定量的理解を目指している。本研究は、その根幹を成す複合材料接合界面可視化装置の開発をSPring-8の軟X線ビームラインBL17SUで進めている。これまでに試作機の開発に成功し[1]、試作機の開発で培ったノウハウを基に、nmオーダーの空間分解能を有する装置の開発を進めている。

複合材料接合界面可視化装置(試作機)と測定系周りの外観と性能評価

関連論文

  1. Oura, M.; Ishihara, T.; Osawa, H.; Yamane, H.; Hatsui, T.; Ishikawa, T. Development of a Scanning Soft X-ray
    Spectromicroscope to Investigate Local Electronic Structures on Surfaces and Interfaces of Advanced Materials under
    Conditions Ranging from Low-Vacuum to Helium Atmosphere. J. Synchrotron Rad. 2020, 27, 664-674.

中嶋 健 グループ

ナノ触診AFMによるエポキシ樹脂のナノ力学マッピング

G1共通試料として提供を受けたエポキシ–アミン系混合物の硬化反応過程で生じるナノスケール不均一構造を、ナノ触診AFM用いて観察し、不均一構造発現メカニズムを解明することを目的に研究を行った。特に転化率と不均一構造の相関解析から転化率増大に伴い相関長の減少、分布の均一化が生じることが判明した。また弾性率とエネルギー散逸の相関から硬化反応そのものに関する知見を得ることもできた。

AM-FMモードAFMによるエポキシアミン系樹脂の弾性率像
(転化率の相違に応じて、異なる不均一ネットワーク構造を示す。)

山田 淳 グループ

電子顕微鏡を用いた接着界面の構造評価

陽極酸化法と引き続く酸化被膜除去操作によりサイズの異なるナノスケール凹凸構造をAl表面に形成させ、エポキシ樹脂との接着力を引張せん断試験により評価した。さらに破壊後の凝集破壊部等について、Al表面やエポキシ層の構造をSEMやAFMで構造解析するとともにXPSにより組成解析を行った。エポキシ層への凹凸構造転写を観測し、凹凸構造内への接着剤の浸透を確認するとともに、ナノ構造化による接着エネルギーの増大を確認した。

Al/エポキシ/Al 接着試料の引張せん断破断片のSEM像:
Alナノ構造部、エポキシ表面部、凝集破壊境界面

青木 裕之 グループ

恒温恒湿環境 in situ 中性子反射率測定による高分子薄膜の構造解析

接着界面における構造解析を行うに当たって、透過性の高い中性子ビームを用いた反射率解析は有力な手法である。当グループでは、温度5〜85℃、湿度0〜85%RHまでの恒温恒湿環境下における中性子反射率計測を実現した。本システムによって高湿度環境におけるポリビニルアルコール膜の構造を解析し、表面では水分子を多く吸着してバルクよりも大きな膨潤度を示すのに対して、固体基板との界面では分子鎖が束縛されることでほとんど膨潤しないことを明らかにした。

恒温恒湿中性子反射率測定システム(左図)によって
明らかにしたポリビニルアルコール薄膜の構造(右図)

関連論文

  1. Miyazaki, T.; Miyata, N.; Asada, M.; Tsumura, Y.; Torikai, N.; Aoki, H.; Yamamoto, K.; Kanaya, T.; Kawaguchi, D.;
    Tanaka, K. Elucidation of a heterogeneous layered structure in the thickness direction of poly(vinyl alcohol) films with
    solvent vapor-induced swelling. Langmuir 2019, 35, 11099-11107.

堀内 伸 グループ

STEM-EELS-EDX同時測定による金属/高分子(Cu/PPS)界面の化学反応

STEM-EELSは、界面のnm領域での化学状態分析を可能とする手法である[1,2]。ポリフェニレンサルファイド(PPS)と銅の接合界面において、表面の酸化銅(CuO)がポリマーの接合により還元され、Cu2OとなっていることをSTEM-EELSにより明らかにした。STEM-EDXによるS元素マップ(赤)はPPSに対応し、STEM−EELS(935-936 eV)によるCuO化学マップ(青)と重ね合わせることで、界面近傍の3つの領域からのCu L2,3-edgeの変化が見られる。この結果から、ポリマーと酸化銅の界面で酸化還元反応が起きていることがわかり、この化学反応が銅表面の微細空間へのポリマーの自発的侵入を促していると考えられる[3]。

銅(赤)/PPS(青)界面3 nm領域から得られるEELSスペクトル

関連論文

  1. Dong, W.; Yamahira, H.; Hakukawa, H.; Li, Y.; Horiuchi, S. Mechanism of Reactive Compatibilization of PLLA/PVDF
    Blends Investigated by Scanning Transmission Electron Microscopy with EDX and EELS. ACS Appl. Polym. Mater. 2019,1, 815-824.
  2. 堀内伸, 電子顕微鏡による接着界面の可視化と解析,日本接着学会誌, 55(10), 374-382, 2019.
  3. Horiuchi, H.; Terasaki, N.; Itabashi, M. Evaluation of the properties of plastic-metal interfaces directly bonded via
    injection molding. Manufacturing Rev. 2020, 7, 11.

竹中 幹人 グループ

エポキシ樹脂におけるナノスケール構造の不均一性評価

小角X線散乱法とコンピュータトモグラフィー法(SAXS-CT法)による接着剤のナノスケール構造の不均一性評価を実現するため、SPring-8のBL05XUにてSAXS-CTが測定可能なシステムを構築した。試料として、市販の接着剤を選定し、硬化後の状態をSAXS-CTにより測定した。その結果、内部にナノスケール構造が不均一に分布していることを明らかにした。

小椎尾 謙 グループ

引張せん断疲労試験・その場X線解析

被着体にステンレス、接着剤にモンモリロナイト含有エポキシ(Epoxy+MMT)を用いて、引張せん断変形用試料を作製した。引張せん断モード、定応力条件下で疲労試験を行うセットアップを確立した。種々印加静的応力(ss)を変化させて、疲労試験を行った結果、 ssの増加に伴い、疲労寿命は低下した。また、引張せん断変形用試料の疲労試験過程におけるマルチスケールでの放射光µビームその場広角X線回折(WAXD)/小角X線散乱(SAXS)測定が行えるセットアップを構築した。

(a) 引張せん断変形疲労試験より得られたEpoxy+MMT接着剤の静的応力と疲労寿命の関係
(b) その場WAXD/SAXS測定のセットアップと二次元SAXSパターン

関連論文

  1. Zhang, Y.; Chu, C.-W.; Ma, W.; Takahara, A. Functionalization of Metal Surface via Thiol-Ene Click Chemistry: Synthesis,
    Adsorption Behavior, and Post-Functionalization of a Catechol- and Allyl-Containing Copolymer, ACS Omega 2020, 5, 13,
    7488-7496.

吉澤 一成 グループ

エポキシ樹脂のガラス転移温度予測モデルの構築

高分子の重要な物性の1つであり、接着現象にも大きく関与していると考えられるガラス転移温度(Tg)についての予測モデルの構築を行なった[1]。エポキシ樹脂67種を含む高分子389種について、重合前のモノマー構造をISIDA記述子で表し、非線形回帰によりTg予測を行なったところ、訓練及びテストセット共に高精度なTg予測が可能であった。また、化学構造を元に2次元マッピングを行ったところ、化学構造とTgに著しい相関があることが明らかに示された。今後は接着エネルギーについても同様な解析手法により評価し、非経験的な材料設計を行うことを目指す。

Tg予測モデル構築と結果            Tgと化学構造の関係

関連論文

  1. Higuchi, C.; Horvath, D.; Marcou, G.; Yoshizawa, K.; Varnek, A. Prediction of the Glass-Transition Temperatures of Linear
    Homo/Heteropolymers and Cross-Linked Epoxy Resins. ACS Appl. Polym. Mater. 2019, 1, 1430-1442.

 


数理統計・マテリアルズインフォマティクスグループ

久池井 茂 グループ

材料の特性予測および実験条件の提案

研究開発代表者Gよりいただいた実験データに対し、ニューラルネットを用いて降伏応力の予測を行った。しかし、データ数が少なく過学習が避けられない結果(図1)となった。そこで、データを蓄積するために学内に実験環境を構築した。データを効率よく集積する手法として、ベイズ最適化による実験条件の提案を行う。任意の物性を最大化しうる実験条件をピンポイントで指定することができるため、データ集積の効率の向上が見込める。今後は、実験データの集積を行うとともに解析結果のフィードバック検証を行い、より精度の高い予測・解析を目指す。

図1:ニューラルネットを用いた降伏応力の予測   図2:ベイズ最適化を用いた実験条件の提案

廣瀬 慧 グループ

マルチスケール構造解明のためのビッグデータ解析手法の研究開発

本研究では、実験条件から材料性質を出力するため、高次元多変量重回帰に基づく統計モデルの構築を行った。まず、曲線の形状を近似する関数を提案した。この関数を用いることにより、次元の高い目的変数の特徴量を抽出することができるようになった。また、同じ実験条件下であっても、実験結果にはばらつきが生じる。信頼性の高い統計モデルを構築するため、応力ひずみ曲線だけでなく、そのばらつきをも推定し、予測区間を構築した。

実験データと予測区間.左が正規分布を仮定した予測区間.右がガンマ分布に基づく予測区間.

関連論文

  1. Hirose, K.; Teramoto, K. L1 regularization and its application to polymer. Materials Research Meeting (MRM) 2019,
    December 10-14, Yokohama, Japan

 


分子接着技術グループ

横澤 勉 グループ

PETやポリカーボネートなどのエステル結合をもつ被着体に対して、ポリエステル接着剤が被着体とのエステル交換反応を起こすことができれば共有結合による強度な接着が期待できる。ポリエステル同士によるエステル-エステル交換反応が進行するかを確認するため、ポリ(ドデカニレンイソフタレート) と ポリ(ε-カプロラクトン) (PCL) を触媒量の t-ブトキシカリウム存在下で加熱した結果、共重合体が合成できた。同様な反応でペレット状の PET を用いても共重合体が得られた [1]。従って、ポリエステル間でのエステル交換反応が進行することが分かり、共有結合による接着技術へ展開していく。

2種のポリエステルのエステル交換反応による共重合体の合成

関連論文

  1. 加藤顕禎, 太田佳宏, 横澤勉, ポリエステル存在下エステル-エステル交換反応ポリエステル合成による共重合体の合成,
    第68回高分子討論会, 1Pf004 (2019).

伊藤 耕三 グループ

ポリロタキサンを用いた高分子材料の強靭化

ポリロタキサンを用いることで高分子を環状分子によって架橋した環動高分子材料は優れた強靭性を示す。本年度は、環動高分子材料のマクロな破壊靭性と環状分子のスライド運動の相関を明らかにした。環動高分子材料の亀裂進展挙動を調べたところ、環動高分子材料の破壊靭性は亀裂進展速度に応じて転移的に変化する現象を発見し [1]、この転移歪み速度が環状分子のスライド速度と関連付けられることを見出した [2]。

環動架橋点のスライドによる高分子材料の強靭化

関連論文

  1. Liu, C.; Kadono, H.; Yokoyama, H.; Mayumi, K.; Ito, K. Crack propagation resistance of slide-ring gels. Polymer, 2019,181, 121782.
  2. Yasuda, Y.; Hidaka, Y.; Mayumi, K.; Yamada, T.; Fujimoto, K.; Okazaki, S.; Yokoyama, H.; Ito, K. Molecular Dynamics of
    Polyrotaxane in Solution Investigated by Quasi-Elastic Neutron Scattering and Molecular Dynamics Simulation: Sliding
    Motion of Rings on Polymer. J. Am. Chem. Soc., 2019, 141, 9655-9663.

大塚 英幸 グループ

自己修復性の分子骨格を利用した革新的接着技術の開発

穏和な加熱により交換反応が進行するビス(ヒンダードアミノ)ジスルフィド(BiTEMPS)を自己修復性分子骨格として導入したモノマーとポリマーの簡便な合成法を確立した。BiTEMPS骨格を導入したエポキシ樹脂では、顕著な応力緩和が観測された。また、BiTEMPS骨格を架橋点に導入した架橋高分子を用いて、異種高分子間の接着技術開発に向けた検討を行った。異種架橋高分子の粉末を接着させることで、自己修復と同様のメカニズムに基づいて混合一体化する革新的手法を開発した[1]。

異種架橋高分子粉末の接着による混合一体化の模式図および掲載論文雑誌の表紙

関連論文

  1. Tsuruoka, A.; Takahashi, A.; Aoki, D.; Otsuka, H. Fusion of Different Cross-linked Polymers Based on Dynamic Disulfide
    Exchange. Angew. Chem. Int. Ed., 2020, 59, 4269-4273.

化学工業日報 (2020年2月3日 掲載)や海外ニュースサイト等で紹介

佐藤 絵理子 グループ

新規易解体性接着材料の設計

接着および解体メカニズムの理解に基づく易解体性接着材料の分子設計、およびそれを可能にする反応性高分子の精密合成に取り組んできた。2つのアプローチで研究開発に取り組み、アプローチ1では、反応性高分子と刺激応答性材料を組み合わせることにより、相乗的に接着強度を低下させられる分子設計及びその実証に成功した[1]。アプローチ2では従来法とは異なる新しい解体メカニズムを提案し、精密合成した反応性高分子を用いることによりその実証に成功し、従来技術より高性能な易解体性接着材料の開発に成功した[2]。

剥離およびせん断接着強さの接着剤の弾性率の関係

関連論文

  1. 佐藤絵理子; 岡田聖大 第69回高分子学会年次大会 2020, 3E18.
  2. 佐藤絵理子; 瓦田和樹 第58回日本接着学会年次大会 2020, B-9.

佐藤 浩太郎 グループ

機能性接着剤に向けた官能基含有植物由来モノマーの重合反応に関する研究

植物由来桂皮酸誘導体から接着機能が期待されるカテコール基などをもつスチレン系モノマーへスケールアップにも対応できる合成手法を明らかにした[1]。このようにして得られる保護基をもつモノマーについて、そのリビング重合を達成するとともに、既存の接着剤のベースポリマーであるアクリル酸エステルとの共重合性についても明らかにした。また、得られたポリマーを接着剤として利用するための簡便な脱保護反応についてもわかりつつある。

植物由来カフェ酸から誘導されるビニルカテコールとその精密重合

関連論文

  1. Takeshima, H.; Satoh, K.; Kamigaito, M. Bio‐based Vinylphenol Family: Synthesis via Decarboxylation of Naturally
    Occurring Cinnamic Acids and Living Radical Polymerization for Functionalized Polystyrenes. J. Polym. Sci., 2020, 58,
    91-100.

内藤 昌信 グループ

ドーパミン代替カテコール誘導体の探索

これまで当グループでは、ムラサキイガイが分泌する接着性物質の分子構造に特徴的なカテコール基を持つバイオベース接着剤の開発を行ってきた。カテコール含有分子の中でも、これまではドーパミンを接着性因子として用いてきたが、コストが高いことや化学的安定性に乏しいという問題があった。そこで、今年度は、より安価なカテコール材料の探索を行い、構造用接着剤のバイオベース化に取り組んだ。中でも、生物発酵で産出したカテコール誘導体が、化学的安定性にも優れていること、また、接着強度も従来のカテコール系バイオベース接着剤と同等以上の性能を示すことを明らかにした。

カテコール代替バイオベース接着剤の接着強度評価

©Copyright Kyushu University, All Rights Reserved.