研究成果
2025年度
マルチスケール解析グループ
田中 敬二グループ
分子界面制御に基づく革新的接着技術の構築
構造の不均一性を解消可能で、かつ形状・熱安定性を維持したエポキシ硬化物を開発した。硬化物に熱処理を施すと、網目骨格に導入したジスルフィド(S-S)結合の交換反応によって不均一構造が解消し、その後、S-S結合とダングリング鎖末端の二重結合(C=C)の反応によって構造が固定化される (図1) [1] 。時間分解AFMに基づき、固体表面上の高分子孤立鎖のセグメントダイナミクスを直接観察し、緩和時間を抽出した。孤立鎖内に局所コンフォメーションに由来する運動性の分布が存在することを明らかにした (図2) [2] 。半結晶性スーパーエンプラ(PEEK)と非晶性スーパーエンプラ(PEI)の接着界面における分子鎖拡散挙動と接着特性を、顕微ラマン散乱分光により評価した。界面厚さ方向におけるPEEKおよびPEIの組成(ϕ)プロファイルから、PEEKの融点を境に、拡散係数が著しく増加することが明らかになった (図3) [3] 。分子動力学計算により、シリカ/エポキシ界面における凝集状態と不均一な硬化過程を評価した。エポキシおよびアミン分子は何れも界面に沿って配向し、硬化後も異方性が維持すること、サイズの小さいアミンが界面で濃縮すること、および未反応物やダングリング鎖が界面に残存することを明らかにした (図4) [4] 。エポキシ硬化物を湿熱処理したところ、水の収着量は処理時間に依存しなかった一方で、架橋密度およびガラス転移温度は処理時間の経過に伴い低下した。架橋密度の低下は、劣化反応による分子鎖切断に起因し、ビスフェノールAおよびその誘導体が溶出することを確認した。密度汎関数理論(DFT)計算の結果、網目骨格中のエーテル結合(C–O)がラジカル的に切断され得ることが明らかとなった (図5) [5] 。OH基で終端されたシリコン(SiOH)基板上で硬化させたエポキシ硬化物を湿熱処理したところ、処理時間の経過に伴い、界面近傍への水の収着が確認された。これに伴い、SiOH界面における見かけの接着エネルギーは低下した。和周波発生(SFG)分光測定の結果、SiOH界面において劣化反応が進行すること、ならびにその起点が界面に吸着した水であることが明らかとなった (図6) [6] 。
関連論文
- Kumamoto, K.; Shundo, A.; Yamamoto, S.; Tanaka, K. One-Time Network Rearrangement for Homogenization of Epoxy Resin Structures. Macromolecules 2025, 58, 9636–9644.
- Morita, S.; Morimitsu, Y.; Tanizaki, S.; Kubo, T.; Yamamoto, S.; Satoh, K.; Tanaka, K. Direct Visualization of Segment-Like Dynamics in Isolated Polymer Chains on Solid Surfaces. J. Am. Chem. Soc. 2026, 148, 12088–12095.
- Kawahara, K.; Abe, T.; Hirata, S.; Honma, M.; Yamamoto, S.; Tanaka, K. Crystal Melting-Controlled Interdiffusion and Adhesion at the Interface between Poly(ether ether ketone) and Poly(ether imide). Macromolecules 2026, 59, 3620−3628.
- Yamamoto, S.; Kuwahara, R.; Tanaka, K. Molecular Picture of Curing and Incomplete Cross-linking of Epoxy at a Solid Interface. Soft Matter 2026, 22, 1583-1590.
- Yamaguchi, K.; Shundo, A.; Taguchi, H.; Kikuchi, T.; Kuwahara, R.; Yamamoto, S.; Kawaguchi, D.; Tanaka, K. Hygrothermal Degradation Mechanism of Amine-cured Epoxy Resin. Polym. J. 2026, 58, 681–689.
- Yamaguchi, K.; Kawaguchi, D.; Shundo, A.; Yamamoto, S.; Totani, M.; Abe, T.; Morimitsu, Y.; Miyata, N.; Miyazaki, T.; Liu, Y.; Aoki, H.; Tanaka, K. Hygrothermal Aging Behavior of Epoxy Resin at Adhesive Interfaces. Macromolecules 2026, 59, 4222–4233.
西野 孝 グループ
高分子接着界面のナノラマン散乱による解析
顕微ラマン分光解析による接着界面評価では、ポリカーボネート(PC)/ポリメタクリル酸メチル(PMMA)接着試料の界面に着目し、溶媒蒸気結晶化による結晶成長の界面構造への影響を明らかにした。熱処理以外での結晶化でも界面の厚みが増加していた。さらに、結晶化後の残留応力の評価に合わせて取り組んだ結果、界面厚みが大きい試料の方が残留応力が増大することが明らかになった。この発生した残留応力は熱融着時からの冷却過程での熱収縮挙動と結晶化に伴う収縮挙動の両方の作用によって発生したと考えられた (図1) [1] 。
また、非晶高分子被着体基板に残留応力を適用するため、結晶性粒子をエポキシ接着剤に添加して評価した結果、残留応力の評価に成功した。さらに、得られた残留応力値は、試料の線熱膨張係数から予測される値と相関が確認された。そのことからも、粒子添加によって、非晶高分子の接着界面における残留応力評価が可能であることを見出した (図2) 。
リサイクル炭素繊維(CF)複合材料においては、PCをマトリックスとして複合化した際の補強効果をラマン分光評価により明らかにした。リサイクル前の炭素繊維と比較し、リサイクル後の炭素繊維ではラマン散乱バンドのシフトが減少し、炭素繊維の補強効果が低減していることが明らかになった。そのことから、リサイクル炭素繊維の表面改質が必要であることが明らかになった(図3) 。
関連論文
初井 宇記 グループ
低損傷放射光顕微X線マルチスケールイメージング技術の開発
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の力学特性および信頼性を向上させるためには、炭素繊維(CF)と樹脂の接着界面における分子スケールでの理解 [1] と、マイクロメートルスケールでの内部構造の理解を統合することが重要である。本研究では、力学特性評価用試験片全体に対して、マイクロメートルスケールで構造評価が可能な手法の開発を目的としている。特に、ISO527-2-1A規格(最狭部幅10 mm、最狭部長80 mm、厚み4 mm)に準拠した試験片の可視化を目指して研究を進めた。
これまでの研究により、SPring-8のBL20XUに設置されたnanoX線CT装置を用いることで、CFRPの繊維凝集領域やボイド、さらには凝集内における繊維の扁平変形を可視化できることが明らかとなった。しかし、nanoX線CTは高い空間分解能を有する一方で、視野が直径100 μm程度に制限されるという課題がある。ISO527-2-1A規格試験片の観察対象領域の体積は、nanoX線CTの視野の100万倍以上であり、現行のnanoX線CT装置では全体観察に対応できない。そこで、ゾーンプレートを使用しない等倍光学系を新たに構築した。解像度を維持しつつ広視野化を図るため、シンチレータおよびレンズ部を最適化した専用のDIFFRAS検出器 [2] を製作した。SPring-8のBL29XUにてISO527-2-1A規格試験片の観察を行ったところ、試験片中央部をインテリアCT条件下で良好に可視化することに成功した (図1) 。また、直径4.4 mm領域に対して人工知能によるインスタンスセグメンテーション [3] を実施した結果、良好な分離結果が得られた (図2) 。この結果から、繊維長や走行方向の分布を直ちに取得できる。さらに、ボイドおよび繊維密度に関しては、古典的手法に基づくセマンティックセグメンテーションにより解析を行った。得られた繊維密度マップを図3に示す。これにより、繊維密度を三次元定量データとして取得することが可能となった。この手法を製造条件の異なる試料に適用することで、製造条件を変えた多数の試料について特徴量を得ることに成功した。この結果と力学特性の相関解析からCFRPの製造条件の最適化が可能になると期待される。
関連論文
- Yamane, H.; Oura, M.; Osamu Takahashi, O.; Ishihara, T.; Yamazaki, N.; Koichi Hasegawa, K.; Ishikawa, T.; Kiyoka Takagi, K.; Hatsui, T. Physical and Chemical Imaging of Adhesive Interfaces with Soft X-rays. Commun. Mater. 2021, 2, 63.
- Kameshima, T.; Hatsui, T. Development of 150 Mpixel Lens-coupled X-ray Imaging Detectors Equipped with Diffusion-free Transparent Scintillators Based on an Analytical Optimization Approach. J. Phys. Conf. Ser. 2022, 2380, 012094.
- Hamamoto, S.; Oura, M.; Shundo, A.; Kawaguchi, D.; Yamamoto, S.; Takano, H.; Uesugi, M.; Takeuchi, A.; Iwai, T.; Seto, Y.; Joti, Y.; Sato, K.; Tanaka, K.; Hatsui, T. Demonstration of Efficient Transfer Learning in Segmentation Problem in Synchrotron Radiation X-ray CT Data for Polymer Resin. Sci. Technol. Adv. Mater.: Methods 2023, 3, 2270529.
中嶋 健 グループ
エポキシ樹脂のネットワーク不均一性/変形下にあるガラス状高分子の不均一応答
エポキシ樹脂のネットワーク構造の不均一性の存在は、その接着性や力学的特性に強く影響する可能性がある。これまでの研究では硬化プロセスの違いで生じる構造的不均一性のサイズと力学物性の変化を追跡してきたが、 本研究ではそれをさらに深掘りし、 ナノレオロジー原子間力顕微鏡(AFM)とバイモーダルAM-FM法を組み合わせて、ナノスケール力学特性を直接可視化し、定量化した。その結果、硬化条件とエポキシ樹脂ネットワーク構造の不均一な挙動との間に相関関係があることが明確に示され、またそれは巨視的測定から予測されるものと非常によく一致していた。特にナノレオロジーAFMの結果からは、ナノスケールでのコンタクトでのマスターカーブを描くことに成功し、ネットワークの不均一性とエポキシ樹脂のガラス転移挙動との関係も明らかになった (図1) [1] 。カーボンブラック(CB)などのナノフィラーによる補強効果に焦点を当て、大きなひずみ下におけるエラストマーナノコンポジットの機械的挙動と応力伝達メカニズムを調査した。AFMに基づくナノスケール可視化手法と、一軸引張試験装置を統合することで、200%のひずみ範囲内における微視的な変形挙動と応力分布のその場追跡に成功した。CB複合材料は、ひずみ下で応力鎖を形成し、これがCBフィラーと相互作用して応力ネットワーク構造を作り出し、著しい補強効果をもたらす。さらにAFM測定と有限要素法(FEM)解析を組み合わせた新たな解析手法も検討した.AFMで得た初期構造からデータ同化してFEM計算を行ったところ、FEMでは実験データよりも小さな伸長比の段階で応力鎖の出現を示した。これはFEMではフィラーの凝集物のように見える大きな塊が同じ構造を維持したまま計算が続いていってしまうためであることも判明した。実際にはAFMで観察できたように、フィラー凝集物は伸長に伴って破壊していく (図2) [2] 。
関連論文
- Nguyen, H. K.; Shundo, A.; Yamamoto, S.; Tanaka, K.; Nakajima, K. Influence of Network Heterogeneity on the Nanoscale Mechanical Properties of Epoxy Resins. Polym. J. 2025, 57, 367–375.
- Liang, X.; Liu, H.; Maeda, N.; Suzuki, M.; Ito, M.; Amino, N.; Koishi, M.; Nakajima, K. An In Situ Method for Deciphering Nanomechanical Behavior in Elastomer Nanocomposites under Large Deformation. Macromolecules 2025, 58, 6688–6697.
山田 淳 グループ
電子顕微鏡を用いた接着界面の構造評価
平均粒径100 nmのシリカ粒子を含むエポキシコンポジット試料をウルトラミクロトームで切削して作製した厚さ約300 nmの試験片について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)内で一軸延伸を行いつつ、電子線強度を極力小さくして亀裂進展挙動のその場観察を行った。延伸速度100 nm/s で実施した場合の結果の一部を図1に示す(延伸は図の左右方向)。延伸に伴い亀裂が発生するが、進展速度と方向は一定ではなく、シリカ粒子の分布状態に影響する様子が示唆された。また、亀裂進展方向に対して垂直方向にシリカ粒子表面からナノボイドが発生し、発生と成長の程度はフェニルシラン修飾シリカ粒子の方がメタクリルシラン修飾シリカ粒子に比べて顕著であることが観察された。また亀裂表面に残存するシリカ粒子の表面組成状態についても検討を進めた。すでに実施済の厚さ~100 nmの試験片での結果と比較しつつ、亀裂進展や破壊のメカニズムについてのマルチスケール解析を進めた。
一方、シリカ/エポキシ接着界面のマルチスケールモデリングの観点から、厚さ0.3 mmのバルク試料(フェニルシラン修飾シリカ粒子, サイズ100 nm, 含有量 0~40 wt%)についても、ダンベル型試験片(JIS規格No.7)を作製し、一軸延伸実験を実施し、シリカ粒子の含有量と力学特性との相関について検討した。さらに、延伸による試験片表面の変化のその場観察をミクロスケール (SEM、図2(a)) とマクロスケール (光学顕微鏡、図2(b))の観点から実施し、比較検討した。前者においては、延伸方向に対して垂直方向に多数の亀裂が瞬時に発生し、ひずみの緩和される様子がデジタル画像相関(DIC)法により解析できた。またマクロスケールにおいても延伸の均一性をチェックしつつ引張応力ーひずみ曲線を算出した結果、ヤング率は2~3 GPaと見積もられた。
青木 裕之 グループ
J-PARC中性子、ミュオンの利用による接着界面の構造・運動解析
高湿度環境下において接着層が吸収した水分子の空間分布を中性子反射率法(NR)によって評価するとともに、その制御を試みた。これまでに高湿度条件においては接着界面において吸収した水が高濃度に偏析することを示したが、本研究においてはそれを抑制することを目指した [1] 。ジアミン硬化剤大過剰のエポキシ接着剤を被着体に塗布し、良溶媒で洗浄することで膜厚数nmの界面層を形成した (図1) 。その後、化学量論比での硬化剤で調製した接着層を成膜し、重水による高湿度環境中でNR測定を行ったところ、被着体との界面における吸収した水の偏析は認められなかった (図2) 。
ラップシア試験による接着力の評価を行ったところ、接着強度がおよそ2倍に増加したことが示された (図3) 。このように界面層の形成による構造最適化によって接着性能の向上が達成できた。
NRは界面法線方向の物質分布を高精度に評価可能な反面、面内方向の構造は評価できない。そこで面内構造評価のための斜入射小角散乱(GISANS)モードを追加するための技術開発を進め、 GISANS で10〜300 nmの構造評価を実現可能な集光ミラーの開発に成功した [2] 。

関連論文
- Liu, Y.; Miyata, N.; Miyazaki, T.; Shundo, A.; Kawaguchi, D.; Tanaka, K.; Aoki, H. Neutron Reflectometry Study on the Interface Layer of Epoxy Resin to Improve Adhesion Strength, ACS Appl. Mater. Interfaces 2025, 17, 37311–37318.
- Yamazaki, D.; Maruyama, R.; Aoki, H.; Hanashima, T.; Akutsu, K.; Miyata, N.; Soyama, K. A Focusing Supermirror for Time-of-Flight Grazing-Incidence Small-Angle Neutron Scattering Measurement, Quantum Beam Sci. 2025, 9, 20.
堀内 伸 グループ
電子顕微鏡による接着メカニズムの解明
接着界面には、図1に例示するように分子レベルからミクロンレベルの様々なスケールの構造が含まれる [1] 。接着メカニズムを理解するために、界面構造を可視化し、さらに、界面の耐久性や破壊現象を精密に解析する必要がある。本グループでは、走査透過型電子顕微鏡(STEM)[2] を中心に用いて、接着界面現象を実時空間3次元構造として明らかにし、さらにEELS(Electron Energy Loss spectroscopy)、EDX(Energy Dispersive X-ray spectrometry)による局所分析により、分子間相互作用を明らかにすることを目的としている。これまでに、アルミ基板と熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)[3,4] やエポキシ樹脂 [5] との接着界面での化学結合の効果、接着界面の劣化現象や破壊現象 [6,7] の解明による耐久性向上、タフ化を目指した研究を進めている。図2は、STEM観察下で捉えた界面ナノ構造を有するアルミとエポキシ樹脂界面の亀裂進展挙動である。a→b→cと亀裂が進む過程で、ミクロボイドとフィブリルからなるクレーズの形成(矢印)とアルミ酸化層の引き剥がし(黄色丸)が起こることを示している [8] 。
関連論文
- Horiuchi, S.; Terasaki, N.; Miyamae, T. Introduction—Interfaces in Adhesion and Adhesive Bonding. (eds) Interfacial Phenomena in Adhesion and Adhesive Bonding. Springer, Singapore. 2024, 1-15.
- 堀内伸, 走査透過型電子顕微鏡(STEM)による高分子材料の多次元構造解析,日本ゴム協会誌 2024, 97(2), 22-26.
- Liu, Y.; Shigemoto, Y.; Hanada, T.; Miyamae, T.; Kawasaki, K.; Horiuchi, S. Role of Chemical Functionality in the Adhesion of Aluminum and Isotactic Polypropylene, ACS. Appl. Mater. Interfaces. 2021, 13(9), 11497-11506.
- Horiuchi, S.; Liu, Y.; Hanada, T.; Shigemoto, Y. Interphases Developed by Interfacial Reactions in Polypropylene-aluminum Joints Unveiled by Local Thermomechanical Analysis. Mater. Today Commun. 2023, 36, 106637.
- Akaike, K.; Shimoi, Y.; Miura, T.; Morita, H.; Akiyama, A.; Horiuchi, S. Disentangling Origins of Adhesive Bonding at Interfaces between Epoxy/Amine Adhesive and Aluminum. Langmuir 2023, 39(30), 10625-10637.
- Horiuchi, S.; Liu, Y.; Shigemoto, Y.; Hanada, T.; Shimamoto, K. In-situ TEM Investigation of Failure Processes in Metal-plastic Joint Interfaces. Inter. J. Adhe. Adhes. 2022, 117, PartB, 103003.
- Horiuchi, S.; Saito, N.; Hanada, T.; Shimamoto, K.; Akiyama, H. Failure of Adhesive Bonding Unveiled by In-situ Strain Testing by High-resolution Scanning Transmission Electron Microscopy. Disc. Mech. Eng. 2024, 3, 11.
- Horiuchi, S.; Sunaga, K.; Saito, N.; Shimamoto, K. Impact of Interfacial Nanostructures on Adhesive Bond Failure Investigated by In-Situ STEM under Tensile Loading, Inter. J. Adh. Ahds.
小椎尾 謙 グループ
複雑な応力場における接着剤の構造応答挙動と疲労寿命予知の加速化
接着特性は、接着剤のバルク物性に加えて被着体との相互作用にも大きな影響をうけるため、単純重ね合わせ継ぎ手(SLJ)等の試料を用いて評価することは必要不可欠である。しかしながら、SLJ内で発生する応力場は極めて複雑であるため、単純な一軸伸長の結果だけでは不十分な場合がある。このため、多様な応力場における内部構造変化と物性の関係を解明することは極めて重要である。セグメント化ポリウレタン(SPU)は、ハードセグメントドメインおよびソフトセグメントマトリクスからなるミクロ相分離構造を有する。一軸、二軸伸長変形、バルジ変形下におけるミクロ相分離構造変化を小角X線散乱/広角X線回折(SAXS/WAXD)測定および赤外吸収分光(IR)測定により評価した (図1) 。二軸伸長およびバルジ変形下においては、一軸伸長変形の場合とは異なりドメイン間隔の増加が抑えられることや膜面内における分子鎖の配向は生じないが分子鎖の結晶化は生じることが明らかとなった [1] 。
ビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)および4,4’-ジアミノジフェニルメタン(DDM)を用いて、混合比 [N-H] / [Epoxy] = 1.0 の条件で、バルク試料を調製した。調製した試料について、引張試験および疲労試験を行った。引張試験において、温度上昇に伴い、ヤング率および降伏応力は低下した。さらに、全反射IR(ATR-IR)測定より、昇温に伴い、断続的に水素結合の開裂が生じることも明らかとなった。図2は、種々の温度におけるDGEBA-DDMの疲労試験より得られたS-N曲線である。縦軸は動的応力振幅、横軸は疲労寿命である。動的応力振幅の低下に伴い、疲労寿命は増加した。さらに、温度上昇に伴い、疲労強度は低下した。これらのS-Nカーブより合成曲線を作成する際に得られたシフトファクターaTを温度の逆数に対してプロットして算出された活性化エネルギーは217 kJ mol-1であった。この値は、C-C結合やC-N結合が切断するのに必要なエネルギーとよく一致することから、本疲労試験は、共有結合の切断により進行していると考えられる。
関連論文
小林 卓哉 グループ
接着界面のマクロスケール解析
これまでシリカナノ粒子を添加したエポキシ樹脂材料の強靭化機構は、粒子界面のはく離とそれに続く塑性ボイドの成長に支配されていると理解されてきた。本研究では、この最終的な強靭化の達成にいたる一連のプロセスを明らかにすることを目的として、き裂進展の過程を、実験と解析の両面から検討した。シリカナノ粒子を添加したエポキシ薄膜を対象とし、① 透過型電子顕微鏡によるその場観察、② 破壊基準を見積もるための分子動力学シミュレーション、③ 破壊力学に基づく有限要素解析を組み合わせた検討を実施し、これまで単粒子の2次元解析技術を開発してきた (図1) [1] 。現在、これを3次元・多粒子に拡張することに加えて、延性破壊力学を適用し、強度発現機構の全体像をシナリオとして提示しようとしている。ナノ粒子が、破壊規模のモード・チェンジャーとして機能することを実証することで、目標は達成すると見込んでいる。
関連論文
吉澤 一成 グループ
第一原理計算による接着の分子論とその応用展開
海洋生物接着剤の主要官能基としてカテコールはよく知られている。カテコール基を含む高分子の脱水酸化γ-アルミナ(γ-Al2O3)(110)表面への接着機構を密度汎関数理論(DFT)計算により調べた。図1はポリ(3,4-ジヒドロキシスチレン)の二量体モデルがγ-Al2O3(110)ドライ面およびγ-Al2O3 (110) 水酸基面に吸着した構造である。本研究成果はエポキシ樹脂の水中接着性の工場に貢献する重要な知見である [1] 。エポキシ樹脂は次世代モビリティなど多様な分野で重要な材料であるが、水分や酸による経時劣化が課題となっている。当グループでは、理論実験の連携のもとに湿熱環境下におけるエポキシ樹脂の劣化機構について量子化学計算を用いた原子分子レベルの解析を行った。図2はエポキシ樹脂でとくに弱いエーテル性C–O結合とアミン系硬化剤に由来するアルキルC–N結合である [2] 。水と酸の存在により結合切断は加速することを明らかにした。エポキシ樹脂は半導体封止材料に使われており、その熱放散は大きな問題となっている。エポキシ樹脂と硬化剤の分子構造について、DFTによるフォノンスペクトルの計算を行い、熱伝導率の算出を行った。得られた値と実測値を比較したところ、定性的な一致が確認された。図3はビスフェノールA型ジグリシジルエーテル(DGEBA)の熱伝導計算モデルである。エポキシ樹脂の熱伝導性について、量子化学計算を用いたフォノン伝導の観点から材料設計の新たな可能性を示すことが期待される。当グループではこれまでに表面処理を行なった炭素繊維の推定構造モデルに基づいて、含酸素官能基で修飾された炭素繊維とエポキシ樹脂との接着界面相互作用に関する第一原理計算を行なってきた。しかしながら、これらの推定構造は必ずしも詳細な表面分析に基づいたものとは言えない。炭素繊維の表面分析を行ってその構造に信頼できる知見を有する企業と連携し、今年度後半から第一原理計算に基づく理論研究を開始した。 図4は文献による炭素繊維の推定構造である。

関連論文
- Shrestha, A.; Kojio, K.; Shiota, Y.; Yamamoto, S.; Tanaka, K.; Satoh, K.; Yoshizawa, K. A DFT Study of Catechol Polymer Adhesion onto g-Alumina (110) Surfaces. Langmuir 2025, 41(35), 23672-23687.
- Shrestha, A.; Yamamoto, S.; Tanaka, K.; Yoshizawa, K.; Shiota, Y. Theoretical Study on the Degradation Mechanism of Epoxy Resin: Homolysis, Hydrolysis, and Acidic Hydrolysis of Chemical Bonds. J. Phys. Chem. B 2026, 130, 17, 4683–4694.
数理統計・マテリアルズインフォマティクスグループ
久池井 茂 グループ
数理統計およびマテリアルズインフォマティクス手法を活用した構造解析
田中G、小椎尾G、廣瀬Gとの共同研究により、バルク試料および単純重ね合わせ継手(SLJ)試料を対象とした、疲労破壊の予兆検知モニタリング手法を構築した (図1) [1] 。「スライド窓k近傍法」や「長・短期記憶(LSTM)」を活用し、試験開始直後のデータや疲労寿命予測における変数選択の知見を反映させることで、長寿命領域での検知精度を向上させた (図2) 。
山田Gとの共同研究では、初期残存応力に起因する立ち上がり位置のばらつきを解消する「ゼロ点合わせ」を自動化し、ヤング率や破壊靭性(面積計算)を迅速に算出する機能の有用性を、多数の実験を通して実証した (図3) 。また、廣瀬Gとの連携により、高度な数理統計手法を統合したソフトウェアパッケージを実装した。廣瀬Gが開発した欠測値を含むデータに対応するSMRMアルゴリズムや、情報量規準に基づく変数選択機能を統合した。これらをGUI操作のみで実行可能とし、実現場での利便性と解析の信頼性を両立させた (図4) 。
関連論文
廣瀬 慧 グループ
マルチスケール構造解明のためのビッグデータ解析手法の研究開発
本グループでは、接着材料の疲労試験データを対象に、接着技術の信頼性向上と疲労寿命予測の高度化に向けた統計解析基盤の構築を進めた。一般に、実験データはすべての測定値が完全に揃うとは限らず、測定不能や観測の打切りなどにより欠損が生じることがある。疲労試験においても、試験途中での破断や観測終了に伴って不完全データが発生しやすく、そのような現実的なデータをどのように活用するかが重要な課題となる。そこで本年度は、欠損を含む多変量データをそのまま活用できる ESMRM(Extended Sparse Multivariate Regression with Missing values)を提案した。モンテカルロシミュレーションを行った結果、既存4手法に比べて係数推定誤差をおおむね2〜10倍改善した (図1) [1] 。さらに、300サイクルごとに得られる時系列データの滑らかな変化を捉えるために関数データ解析を導入し、高次元化する説明変数を寿命予測に有効な形で要約するために部分最小二乗回帰(PLS)を用いた。加えて、加速故障時間(AFT)モデルを用いて寿命を予測した (図2) 。これにより、寿命を直接予測するだけでなく、その長短にどの特徴が関与しているかを解釈可能な形で評価できる枠組みを構築した。
関連論文
分子接着技術グループ
横澤 勉 グループ
新規硬化技術による高耐熱性樹脂の開発/耐熱性ポリアミド接着剤の開発
有機溶媒への溶解性が高いN-アルキルアラミドがN-Hアラミドより高い接着強度を示すことをステージ2で見出したので、今年度はその接着の最適化、接着機構の解明、および架橋性N-アルキルアラミドの開発を検討した。サンドブラスト処理した軟鋼板のN-メチルアラミドによる接着をこれまで150℃と250℃で行い、耐熱性(熱間引張温度を上げた時の接着強度)を検討してきたが、接着温度が2つの場合だけでは傾向が掴みにくかった。そこで同一ロッドのアラミドではないが、100℃と200℃における接着も行い、以前の結果も含めて耐熱性を評価した (表1) 。その結果、100℃における接着においても室温における接着強度は、約10 MPa を示した。しかしながら、いずれの接着温度でも熱間引張温度を接着温度より高くすると、接着強度は低下する傾向が明らかになった。
田中Gとの連携によってN-メチルアラミドと金属表面の相互作用について検討した。すなわち、原子層堆積法で調製したアルミナ層(~5 nm)にN-メチルアラミドとN-Hアラミドをそれぞれ塗布して、和周波発生(SFG)分光分析によって水素結合の有無について検討した。その結果、N-メチルアラミドにおいて界面でアミド結合に由来するピーク(amide I)が観測された。また、一般的に観測されるamideⅠピーク位置(1645~1650 cm-1)よりも低波数で観測されたことからアルミナ界面と水素結合を形成していることが示唆された。また、3000 cm-1 以上の長波数領域では、N-メチルアラミドにおいて界面でOHに由来するピークが通常より低波数で観測され、界面に存在するH2OおよびAlOHは、水素結合を形成していると考えられる。一方、N-Hアラミドにおいては、amide I のピークもOHに由来するピークも観測されなかった。従って、N-メチルアラミドと金属界面での水素結合形成が、接着強度がN-Hアラミドより高い一つの要因と考えられる。
N-アルキルアラミドが接着時に架橋していること、および引張試験では凝集破壊していることが昨年度までに明らかになっていることから、N-アルキルアラミドに熱架橋性基を導入すれば、凝集力が向上し、接着強度と耐熱性を上げられることが期待できる。そこで、熱架橋性基としてプロパルギルオキシ基をN-メチルアラミドに導入することにした。イソフタル酸ジクロリドにプロパルギルオキシ基を導入したモノマーを合成し、これまでと同様にジアミンとイソフタル酸塩化物と共重合をした (図1) 。その結果、ほぼ仕込み比どおりプロパルギルオキシ基が導入されたN-メチルアラミドが得られた。これを加熱すると、15 分以内に架橋反応が終了し、Tg は 架橋前のアラミドより高温化した。
伊藤 耕三 グループ
タフポリマーを用いた高強度接着剤の開発
当研究グループでは、環動高分子や超分子などを用いたタフでしなやかな接着剤の開発とその分子的接着機構の解明を目指している。本年度はポリロタキサンが樹脂のタフネス化に与える効果について分子的機構解明を実施した。本研究では、ポリマー鎖の運動性および結晶化挙動を制御する機械的にインターロックされた超分子添加剤であるポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンを導入することで (図1) 、ポリエステルの靭性を向上した [1] 。モデル系としてポリブチレンサクシネートを用いた結果、引張強度およびヤング率を低下させることなく、靭性が300%以上向上することを確認した (図2) 。この顕著なタフネス向上は、ポリロタキサン特有の「滑車効果」に起因する分子レベルでの応力分散機構によると言われている。すなわち、ポリエチレングリコール鎖に包接されたシクロデキストリン環が外力に応じてスライドすることで、局所的な応力集中が緩和され、破壊の起点となるクラックの進展が抑制される。このとき、ポリカプロラクトン鎖を介してマトリクス樹脂と共有結合的に連結されたポリロタキサンは、単なる可塑剤とは異なり、分子レベルでの動的架橋点として機能する。さらに、放射光X線散乱(SAXS/WAXS)およびDSC測定の結果から、ポリロタキサンは結晶構造そのものを破壊することなく、主として非晶領域に分散し、結晶ラメラ間の界面における分子運動性を選択的に向上させることが明らかとなった (図3) 。これにより、結晶性によって担保される剛性を維持しつつ、非晶領域におけるエネルギー散逸が促進されることで、強度と延性の両立が実現される (図4) 。このような階層構造に基づく力学特性の向上は、接着剤設計において重要な意味を持つ。一般に高強度接着剤では、剛直なネットワーク構造により高い接着強度が得られる一方で、応力集中による界面破壊や脆性的破壊が問題となる。本系では、ポリロタキサンの可動架橋構造により、接着界面においても応力が均一に分散されるため、界面破壊を抑制しつつ高い接着強度と靭性を同時に実現できると考えられる。以上の結果より、ポリロタキサンを基盤とした超分子設計は、従来の「強度と靭性のトレードオフ」を打破するとともに、「接着強度・耐久性・解体性」を同時に満たす新たな高機能接着剤の設計指針を提供するものである。本アプローチは、エポキシ系ビトリマーなどの動的共有結合ネットワーク [2] との融合により、さらなる高性能化および機能拡張が期待される。
関連論文
- Liu, C.; Ando, S.; An, Y.; Feng, S.; Fulati, A.; Naito, M.; Takahara, A.; Ito, K. Polyrotaxane Architecture Enables Unprecedented Toughness and Marine Degradability in Sustainable Polyesters. ACS Sustainable Chem. Eng. 2026, 14, 14, 6719–6728.
- Hanafusa, A.; Ando, S.; Ozawa, S.; Hasegawa, R.; Ito, K. Environmentally Adaptive Vitrimer Adhesives: Enhancing Dismantlability and Recyclability by Introducing Polyrotaxane Networks, ACS Omega, 2026, 11, 5, 7545–7552.
大塚 英幸 グループ
自己修復性の分子骨格を利用した接着技術の実践的展開
当グループでは、主に架橋高分子を対象とした接着に関する研究を行っている。架橋高分子は三次元網目構造を有し、優れた力学物性を示す一方で、不溶・不融であるため再成形が困難であることや、合成時に歪みが蓄積するという課題を抱えている。これらの問題を解決する手法の一つとして、近年、自己修復性を付与する動的共有結合の導入が注目されている。
当グループでは、「架橋高分子接着技術の展開」と「応力緩和技術の展開」という、接着分野における2つの挑戦的課題に対し、これまでに開発してきた自己修復性分子骨格を駆使して取り組んできた。サードステージ初年度にあたる今年度は、自己修復性分子骨格としてビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)ジスルフィド(BiTEMPS)骨格が、バイオマテリアル由来高分子にも導入可能であり、さらに化学構造に依存せず高分子反応が進行することを示した (図1) [1] 。また、架橋点にBiTEMPS骨格を有する架橋メタクリレートポリマーにおいて、主鎖から架橋点までのスペーサー長が再成形挙動に影響を及ぼすことを系統的に明らかにした (図2) [2] 。さらに、これまでの成果を総合論文としてまとめた [3] 。
これらに加え、BiTEMPS骨格を有する可溶性分子内架橋オリゴマーを、BiTEMPSを含まない架橋ポリウレタンに浸潤させた後、加熱による交換反応を行うことで相互侵入高分子網目(IPN)構造への変換を系統的に検討した。その結果、可溶性オリゴマーの分子量が小さいほどIPNの重量増加率が高く、弾性率が向上することを明らかにした (図3) 。さらに、適切な分子設計に基づきBiTEMPS骨格をエポキシ樹脂に導入することで、強度を維持したまま再接着性および分解性を付与できることを示した。

関連論文
- Yokochi, H.; Abe, T.; Fujimata, S.; Aoki, D.; Otsuka, H. Biobased Cyclic Polycarbonate: Synthesis and Applications via Dynamic Bis(hindered amino)disulfide Linkers. ACS Macro Lett. 2025, 14, 750-756.
- Sakamoto, S.; Aoki, D.; Takahashi, A.; Otsuka H. Tunable Mechanical and Dynamic Properties via Cross-Linker Length in Bis(hindered amino)disulfide-Based Covalent Adaptable Networks. Macromol. Rapid Commun. 2025, 46(22), e00522 .
- (総合論文)大塚英幸, 高橋明, ラジカル系の動的共有結合化学が拓くサステナブルなネットワークポリマー. ネットワークポリマー論文集, 2026, 47, 38-44.
佐藤 絵理子 グループ
高強度・界面剥離型の易解体性接着材料の開発
接着材料に易解体性を付与する手段の1つとして、熱膨張性マイクロカプセル(MC)の利用がある。熱可塑性接着剤にMCを添加した場合、MCの膨張開始温度以上で加熱することにより、MCの体積膨張により接着層が大きく変形・可塑化し、接着強度が低下する。一方、接着時の接着強さ向上には架橋構造の導入が有効であるが、架橋密度が高く高弾性率の熱硬化性接着剤中に含まれるMCは膨張が抑制され、 MCの膨張開始温度以上で加熱しても十分な解体性が得られないという課題がある (図1(a)) 。我々のグループでは、熱的に切断可能な架橋点を導入した熱硬化性樹脂とMCを組み合わせた易解体性接着材料を設計した [1,2] 。接着時は、架橋構造に起因する高い接着強さが得られ、解体処理としてMCの膨張開始温度以上で加熱すると架橋点の切断により架橋密度および弾性率が低下し、MCの膨張が阻害されることなく接着剤層の変形と可塑化が起こり、接着強度が低下する (図1(b)) 。特に、熱的に切断可能な架橋点を導入した熱硬化性樹脂とMCからなる「解体層」を局在化することにより、接着時は10 MPa以上の高い引張せん断接着強度を示し、解体処理後には被着体の自重で自発的に破断する程度の優れた解体性を両立できることを明らかにした。
関連論文
- 佐藤絵理子,特許第7681915号 (2025年5月15日).
- Kitamuro K.; Otsu M.; Arita K.; Sato E. Dismantlable Adhesives using Thermally Expandable Microcapsules and Epoxy Network Polymers containing Diels-Alder Adducts with a Flexible Alkyl Chain. 19th Pacific Polymer Conference. 2025.7.9.
佐藤 浩太郎 グループ
機能性バイオベース接着剤に向けた植物由来カテコール基含有物質の化学変換
我々はこれまでに、植物由来のカフェ酸からカテコール基をもつスチレン系モノマーを合成可能であり、このモノマーを石油由来原料の精密重合の知見を活かして接着機能が期待されるカテコール基をもつポリマーが得られることを明らかにしてきた。特に得られるカテコールポリマーをプライマーとして利用することで、従来では接着力のないアルミニウム基盤に対しても接着力を示すことを明らかにした [1] 。これまではカテコールの保護基として、エステル基やシリル基などで保護されたビニルカテコールモノマーについて重合を検討してきたが、保護基を用いることなくカチオン重合を行うことで、分岐構造をもつポリビニルカテコールが効率的に合成できることを見出した (図1) [2] 。この手法は、保護基を用いない点において、原子効率といった環境負荷の観点から工業的にも有用であると考えられる。現在は、さらに重合技術を深化することで、ラジカル重合による星型ポリマーの合成など (図1) 、より高度に構造が制御されたポリマーの開発も行なっている。このような機能性官能基をもつ天然由来モノマーの精密高分子合成により、バイオベース化された更なる革新的なスマート接着技術を構築し、解析・MIグループとの連携をさらに推進し、その接着機構を明らかにすることも目指しています。例えば、第一原理計算によるカテコール官能基とアルミナ基盤との相互作用の強さについて計算科学を駆使して明らかにしつつある [3] 。さらに、ポリスチレン中にカテコール基を導入することで、基盤上でうねる高分子鎖を可視化する際に相互作用の有無による明確な違いについても共同研究で示すことに成功している[4] 。
関連論文
- Tanizaki, S.; Kubo, T.; Bito, Y.; Mori, S.; Aoki, H.; Satoh, K. Development of a Bio-Based Adhesive by Polymerization of Boc-Protected Vinyl Catechol Derived from Caffeic Acid. RSC Sustain. 2025, 3, 1714–1720.
- Fujita, R.; Kubo, T.; Satoh, K. Synthesis of branched catechol-containing polymers by cationic polymerization of unprotected 4-vinylcatechol: Combination of vinyl polymerization and polyaddition, MRS Commun., 2025, 15, 1144–1149.
- Shrestha, A.; Kojio, K.; Shiota, Y.; Yamamoto, S.; Tanaka, K.; Satoh, K.; Yoshizawa, K. A DFT Study of Catechol Polymer Adhesion onto g-Alumina (110) Surfaces, Langmuir, 2025, 41, 35, 23672–23687.
- Morita, S.; Morimitsu, Y.; Tanizaki, S.; Kubo, T.; Yamamoto, S.; Satoh, K.; Tanaka, K. Direct Visualization of Segment-Like Dynamics in Isolated Polymer Chains on Solid Surfaces, J. Am. Chem. Soc., 2026, 148, 11, 12088–12095.
次世代接着技術社会実装戦略グループ
目代 武史 グループ
次世代接着技術の社会実装過程における産業構造変化に関する研究
本研究グループでは、次世代接着技術の社会実装を進めるうえで、技術そのものの性能評価にとどまらず、それがどのような顧客課題を解決し、どのような市場で受け入れられ、どのような事業化条件を必要とするのかを明らかにする研究を進めた。今年度は、共同連携機関との対話を通じて、技術起点で用途を列挙するのではなく、顧客が達成したい目的、必要機能、解決方式、個別技術という階層で市場を捉える視点を整理した。
図1は、易解体接着技術をモデルケースとして、用途候補、市場性、顧客価値、競争優位性を整理した際の考え方を示したものである。これにより、性能要件だけでなく、解体機会の明確さ、顧客にとっての便益、既存技術との比較、採用条件を含めて評価することの重要性が明らかになった。あわせて、技術がもたらす機能を顧客価値へと転換し、その価値がどのような条件で事業化につながるかを検討する枠組みを具体化した。
図2は、リサイクルCFRPの用途探索において、原料源、中間基材、期待される価値機能、用途候補を関連づけて整理した例である。ここでは、材料特性をそのまま論じるのではなく、軽量化、電磁波対策、意匠性、環境性など、顧客にとっての価値を起点に用途を検討することの有効性が確認された。また、用途探索にあたっては、性能だけでなく、顧客要求、競合技術、採用障壁をあわせて把握する必要があることを示した。
これらの成果を通じて、次世代接着技術の社会実装には、技術開発と並行して、市場評価、顧客価値の整理、採用条件の把握、事業化シナリオの構築を進めることが不可欠であることを示した。本年度の検討により、個別技術の優劣を論じるだけでは社会実装には至らず、技術と市場、顧客価値、事業化条件を接続する視点が重要であることを具体的に示すことができた。




