挨拶

ご挨拶

第5期科学技術基本計画において、「産業創造」と「社会変革」に向けた新たな価値創出の取り組みとして、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたSociety 5.0の実現が提唱されています。超高齢化社会を迎えた我が国では、高齢者の移動支援、交通事故の減少や渋滞の緩和、さらには、物流の改善等が問題となるでしょう。これらを解決するためには、自動運転車とIoT(Internet of Things)ならびにAI(人工知能)技術を結びつけることでモビリティーの最適化を行い、人々が安全・安心に暮らせるコンパクトシティを構築することが必要となります。また、Society 5.0は「持続可能な開発目標」(SDGs)を実現する取り組みでもあります。我が国が世界に範たる「脱炭素社会モデル」を構築するとともに、世界市場で勝ち抜くためには、画期的なイノベーションを生み出し、それを社会経済構造の変革に結び付けていく必要があります。本研究開発では、これを実現する国家基盤技術の一つとして、次世代接着を位置づけ、学理の構築から社会実装まで一貫して行います。

モビリティーの設計・製造プロセスに接着技術を導入・固定化するには、学理に基づく信頼性や健全性の確立が要求されます。 しかしながら、接着層は構成部材中に埋もれており、その直接評価は技術的に極めて困難です。 加えて、接着界面を分子からマクロまでのマルチスケール、さらには、時間を考慮した4次元で解析する技術ならびに方法論も確立されていません。 このため、実接着界面の理解が遅れ、強度の支配因子、環境劣化の理由、品質保証の指針、 健全性の確認方法、等がわからないという製造現場での問題に繋がっています。言い換えますと、接着界面の本質的な理解の遅れが次世代接着技術の確立、さらには、 モビリティー部材のマルチマテリアル化やオールプラスチック化実現のボトルネックとなっています。 また、更なる耐熱性や力学特性・強度、壊れても自ら修復できる性質、使用後に簡単に分離できる性質などの新しい接着技術は、分子論的理解に基づく技術への展開なくして、実現することは困難です。

本プログラムでは、化学、物理、数理科学を専門とする研究者群と企業連合体が連携し、「接着現象」を、界面の学理構築からものづくりまで一貫して展開します。具体的には、接着界面をマルチスケールかつ4次元で解析し、その発現機構を明らかにします。 得られた情報を、分子設計にフィードバックすることで、これまで達成できなかったスペックの接着を可能とし、 これらの知見を国家基盤技術として体系化することで、社会実装に展開します。 特に、モビリティーの生産現場における、 溶融接合、固相接合やボルト・リベット等を用いた機械接合を、化学接着へと代替することで、製品の軽量化、さらには、電動化・知能化、また、手間とコストの削減を実現することで、我が国の「経済発展」と「社会的課題の解決」に貢献することを目指します。

本プログラムを強力に推進し、飛躍・発展させるために、皆さまのご指導・ご支援を頂けますよう、何卒、お願い申しあげます。

 

九州大学大学院 教授
科学技術振興機構 プログラムマネージャー
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