2023年度

研究成果

2023年度


 

マルチスケール解析グループ

田中 敬二グループ

接着現象の理解 / 接着寿命の支配因子の理解と制御

シリコン表面にオレフィン鎖と架橋可能なベンゾフェノン基を含有するポリメタクリレート(PBP)の吸着層を形成させることで、ポリプロピレンとの接着性を著しく向上できることを検証した(図1)[1]。石英表面上のポリメタクリル酸メチル(PMMA)鎖に位相敏感和周波発生(ps-SFG)分光法を適用し、界面における吸着鎖の局所的なコンフォメーションを評価した結果、PMMAのエステルメチル基は石英界面に向かって配向することが明らかになった。また、全原子分子動力学(MD)シミュレーションを組み合わせることで、局所構造の分布について明らかにした(図3)[2]。シリカ粒子含有エポキシ樹脂における界面のモデル系として、アモルファスシリカ表面上にエポキシ樹脂(DGEBA/DDM)を配置した構造を考え、吸着水による界面構造と硬化反応への影響をMD計算で評価した。最界面の水は硬化後も吸着したままであったが、一部の水はエポキシ樹脂側へ浸透した。その結果、未反応物の移動度が向上し、硬化反応は加速した(図3)[3]。ビスフェノールA型(DGEBA)およびF型(DGEBF)のエポキシ主剤とアミン(DDM)との硬化反応を比較した場合、DGEBFの系の反応は、DGEBAの系のそれよりも遅いことが明らかになった。紫外可視分光(UV-Vis)および広角X線散乱(WAXS)測定に基づき、反応初期ではDGEBF分子のフェニル基がスタックしていることが確認された。MD計算に基づき、DGEBFがスタックした構造から反応を計算した結果、DGEBAの系よりも反応が遅く、実験と傾向が一致することを確認した(図4)[4]。

関連論文

  1. Kawaguchi, D.; Nakayama, R.; Koga, H.; Totani, M.; Tanaka, K. Improvement of Polymer Adhesion by Designating the Interface Layer. Polymer 2023, 265, 125581.
  2. Kawaguchi, D.; Sasahara, K.; Inutsuka, M.; Abe, T.; Yamamoto, S.; Tanaka, K. Absolute Local Conformation of Poly(methylmethacrylate) Chains Adsorbed on a Quartz Surface. J. Chem. Phys. 2023, 159, 244902.
  3. Yamamoto, S.; Kuwahara, R.; Tanaka, K. Interfacial Structure of Epoxy Resins on Amorphous Silica Surface under Dry and Wet Conditions. Nihon Reoroji Gakkaishi 2024, 52(2), 91-98.
  4. Shundo, A.; Phan, N. T.; Aoki, M.; Tokunaga, A.; Kuwahara, R.; Yamamoto, S.; Tanaka, K. Exploring the Impact of Molecular Structure on Curing Kinetics: A Comparative Study of Diglycidyl Ether of Bisphenol A and F Epoxy Resins. J. Phys. Chem. B 2024, 128(19), 4846–4852.

西野 孝 グループ

高分子接着界面のナノラマン散乱による解析

顕微ラマン分光解析による接着界面評価[1,2]では、類似の骨格を持つエポキシ樹脂界面の評価に取り組み、同種エポキシ界面の場合と同じように2種類の界面形成機構の存在が示唆された。さまざまなエポキシ樹脂を評価することで、エポキシの前駆体成分がもう一方のエポキシ樹脂の架橋構造に浸透していくことで形成されることが明らかとなり、図1のように界面構造の可視化に加えて、その界面の厚みと接着強度の相関も明らかにした。また、結晶性高分子/非晶性高分子であるPMMA/PVDFの接着界面における拡散挙動が結晶領域の存在により制約を受け、非晶高分子同士の組み合わせであるPMMA/PCの接着界面と比較しても、拡散の活性化エネルギーが増加することも図2のように明らかにした。相溶性の高分子同士であるPMMA/PVDFであっても結晶領域の存在によって拡散が抑制されることを見出した。残留応力の評価では、湿熱劣化の影響による接着剤の分解により、界面領域の残留応力が大きく低減することを明らかにし、さらに、PEEK試料の接着界面の残留応力や内部応力の熱処理依存性の評価にも成功した。リサイクル炭素繊維複合材料の研究では、リサイクル炭素繊維の表面処理により強度が上昇し、さらに図3のように破壊の原因となるボイドの発生分布と補強効果の相関も明らかにした。

関連論文

  1. Matsumoto, T.; Shimizu, Y.; Nishino, T. Analyses of Adhesion Interphase of Isotactic Polypropylene Using Hot Melt Polyolefin Adhesives. Macromolecules 2021, 54, 7226-7233.
  2. 松本拓也,西野 孝, ラマン分光による接着界面解析, 接着の技術 2023, 42, 31-36.

初井 宇記 グループ

低損傷放射光顕微X線マルチスケールイメージング技術の開発

本グループは、接着界面の化学状態観察のための放射光軟X線顕微鏡の開発を行っている[1]。本研究において20 nm spacingを解像できる撮像能力を実現した。軟X線スペクトルは化学結合に関する情報を与える。最近では弱い水素結合であるOH···π相互作用も観測できることを示した [2]。この手法を熱硬化性エポキシ接着剤ビスフェノールA型エポキシ接着剤(DGEBA-DDS)と熱可塑性母材のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)に適用したところ、接着剤の破壊、母材破壊、および界面破壊が混在している様子を分子レベルで判別・可視化できることがわかった [3]。炭素繊維強化プラスチック(CFRP)系では、実用接着材の接着界面において共有結合が形成されていることを示し、さらにその分布の可視化に成功した(図1)[4] 。機械強度の理解にはサブミクロンスケールの構造も重要である。そこで放射光高エネルギーX線CT法を適用したところ炭素繊維の凝集領域が存在し、さらにボイドが多数生じている様子が観察できた (図2)。試験片全体を可視化するため、検出系の高度化と大量データ解析フローの構築を行っている。検出系については1億2800万画素のDIFFRAS検出器[5]を導入により高効率・広視野・高感度化した。解析フローについては、古典的セマンティックセグメンテーションと機械学習によるインスタンスセグメンテーションによる樹脂中の炭素繊維の構造に関する特徴量(走行方向分布、繊維間距離等)を標準的な機械物性試験片全体について定量化することに成功した。これらの手法によりCFRP系における製造方法と機械物性の定量的な理解が可能になると期待している。

関連論文

中嶋 健 グループ

フィラー充塡エポキシ樹脂およびエラストマーの界面のナノスケール力学物性計測

シリカ充塡エポキシナノコンポジットの硬化反応過程で生じるナノスケール不均一構造を、ナノ触診原子間力顕微鏡(AFM)およびナノレオロジーAFMを用いて観察し、1stステージで得た不均一構造発現メカニズム解明の更なる深化を図った。ナノコンポジットの弾性率像にはフィラー、エポキシマトリックスおよびそれらの界面という、異なる応答を示す領域が観察され、図1に示したように界面領域の弾性率はバルク領域の弾性率値よりも4~5倍小さくなっていた。さらにナノレオロジーAFMによってエポキシマトリックスと界面それぞれのナノ粘弾性の温度分散を計測することに成功した(図2)。特に損失正接の温度依存性から、ガラス状態において界面での粘弾性応答がマトリックスと比較して増大していることが示された。この観察は、エポキシナノコンポジットの強靭化メカニズムに界面での粘弾性エネルギー散逸が関与していることが示唆された[1]。導電性フィラーを充塡したエラストマーは、さまざまな分野への応用が期待されており、変形下における導電メカニズムの解明は極めて重要である。本グループでは、導電性エラストマーの微視的変形と微視的導電性を同時に評価するために、その場ナノ触診AFMと導電性AFMを組み合わせた手法を開発した。この手法により、導電性ネットワーク構造をナノスケールで可視化し、異なる圧縮ひずみ下での微視的応答を追跡し、図3に示したように微視的電気特性と巨視的電気特性の相関を明らかにした[2]。

関連論文

  1. Nguyen, H. K.; Shundo, A.; Ito, M.; Pittenger, B.; Yamamoto, S.; Tanaka, K.; Nakajima, K. Insights into Mechanical Dynamics of Nanoscale Interfaces in Epoxy Composites Using Nanorheology Atomic Force Microscopy. ACS Appl. Mater. Interfaces 2023, 15, 38029-38038.
  2. Liang, X.; Liu, H.; Fujinami, S.; Ito, M.; Nakajima, K. Simultaneous Visualization of Microscopic Conductivity and Deformation in Conductive Elastomers. ACS Nano 2024, 18, 3438-3446.

山田 淳 グループ

電子顕微鏡を用いた接着界面の構造評価

シリカフィラー含有エポキシ樹脂について、透過型(TEM)及び走査型(SEM)電子顕微鏡内における引張破壊過程のその場観察法の開発と高感度・高精度化を進めた。TEM内での引張実験では、厚さ100~160 nmのスピンコート薄膜を用いた。TEM画像の空間解像度とコントラストの向上を図るとともに、デジタル画像相関(DIC)法による二次元ひずみ分布の変化を解析した。フェニルシラン修飾シリカ粒子(粒径100 nm)含有エポキシ薄膜の場合の結果を図1に示す。引張で発生する亀裂がシリカフィラーに遭遇すると進展が抑止され、ひずみが蓄積され、再び亀裂が発生してシリカフィラーを迂回するように進んでゆく様子が繰り返し観測された。また、亀裂先端部におけるひずみの蓄積や亀裂通過後にひずみの緩和もDIC解析より再現できた。また、亀裂進展がシリカフィラーの少し手前で抑止される現象も単一フィラースケールで観測され、理論解析を進めている。

SEM内での引張実験では、フェニルシランあるいはメチルメタクリルシランで表面修飾した多分散型シリカ粒子(平均粒径1µm)含有エポキシ樹脂のダンベル型試験片(厚さ〜0.3 mm)を用いた。試験片の滑り等を防ぐための治具を改良し、再現性の高い応力ーひずみ曲線と一定応力下でのSEM写真の取得が可能となった。フェニルシラン、メチルメタクリルシランで表面修飾したシリカ粒子含有試験片の引張試験結果の一例をそれぞれ図2、図3に示す。フェニルシラン修飾シリカ粒子含有試験片の場合、応力が〜60 MPa以上になると引張方向のシリカ粒子/エポキシ界面が剥離し成長してゆく様子が観測された。一方メチルメタクリルシラン修飾シリカ粒子含有試験片の場合には引張による界面の剥離は顕著に認められなかったことから、両者で接着界面構造が異なることが示唆される。TEMにおける引張実験でも類似した現象が認められ、他の分光法も駆使して接着機構の解明を進めている。

青木 裕之 グループ

中性子反射率によるエポキシ接着剤界面の構造解析

外部環境から吸湿した水分がエポキシ接着剤の接着界面に与える影響を評価した。これまでに吸収した水が接着界面近傍に高濃度に偏析することを示してきた。中性子反射率を用いることで、このような界面近傍での水の凝集は、エポキシ接着剤の硬化反応が被着体との界面で影響を受けることでバルクとは異なる構造を有しているためであることを示した(図1)[1,2]。

従来の中性子反射率測定では不均一な破壊界面を評価することを不可能であった。そこで中性子反射率トモグラフィー(CT)を適用することで、破壊後の中性子反射率測定を行うことに成功した。その結果、外観からは界面破壊が生じている領域でも、被着体上には厚さ約5 nmの接着剤層が存在していることが示された。

関連論文

  1. Liu, Y.; Miyata, N.; Miyazaki, T.; Shundo, A.; Kawaguchi, D.; Tanaka, K; Aoki, H. Neutron Reflectometry Analysis of Condensed Water Layer Formation at a Solid Interface of Epoxy Resins Under High Humidity. Langmuir 2023, 39(29), 10154-10162.
  2. 青木裕之, 中性子反射率による接着界面の構造解析, 波紋 2023, 33(4), 142-145.

堀内 伸 グループ

電子顕微鏡による接着メカニズムの解明

接着界面には、図1に例示するように分子レベルからミクロンレベルの様々なスケールの構造が含まれる[1]。接着メカニズムを理解するためには、界面構造を可視化し、さらに、界面の破壊現象[2]を精密に解析する必要がある。本グループでは、走査透過型電子顕微鏡(STEM)[3]を中心に用いて、接着界面現象を実空間3次元構造として明らかにし、さらにEELS(Electron Energy Loss spectroscopy)、EDX(Energy Dispersive X-ray spectrometry)による局所分析により、分子間相互作用を明らかにすることを目的としている。これまでに、アルミ基板と熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)[4,5]やエポキシ樹脂[6]との接着界面現象を明らかにしてきた。さらに、本界面解析手法を接着界面の耐久性評価に適用し、接着界面の劣化現象(図2)や破壊メカニズム(図3)の解明に取り組んでいる。

関連論文

  1. Horiuchi, S.; Terasaki, N.; Miyamae, T.  Introduction—Interfaces in Adhesion and Adhesive Bonding.  (eds) Interfacial Phenomena in Adhesion and Adhesive Bonding. Springer, Singapore. 2024.
  2. Horiuchi, S.; Liu, Y.; Shigemoto, Y.; Hanada, T.; Shimamoto, K. In-Situ TEM Investigation of Failure Processes in Metal-Plastic Joint Interfaces. Int. J. Adhes. Adhes. 2022, 117, PartB, 103003.
  3. 堀内伸, 走査透過型電子顕微鏡(STEM)による高分子材料の多次元構造解析, 日本ゴム協会誌 2024, 97(2), 22-26.
  4. Liu, Y.; Shigemoto, Y.; Hanada, T.; Miyamae, T.; Kawasaki, K.; Horiuchi, S. Role of Chemical Functionality in the Adhesion of Aluminum and Isotactic Polypropylene. ACS. Appl. Mater. Interfaces 2021, 13, 11497-11506.
  5. Horiuchi, S.; Liu, Y.; Hanada, T.; Shigemoto, Y. Interphases Developed by Interfacial Reactions in Polypropylene-Aluminum Joints Unveiled by Local Thermomechanical Analysis. Mater. Today Commun. 2023, 36, 106637.
  6. Akaike, K.; Shimoi, Y.; Miura, T.; Morita, H.; Akiyama, A.; Horiuchi, S. Disentangling Origins of Adhesive Bonding at Interfaces between Epoxy/Amine Adhesive and Aluminum. Langmuir 2023, 39, 10625-10637.

竹中 幹人 グループ

エポキシ樹脂における撹拌時間が及ぼす構造不均一性と力学特性の相関

放射光の中角X線散乱(MAXS)法とコンピュータトモグラフィー法を組み合わせたMAXS-CT法により、接着剤の補強材であるナノ粒子と架橋構造の硬化過程におけるその場計測を実施した。攪拌・脱泡を各10秒とした試料におけるフィラー粒子の空間分布の不均一性は、各3分で硬化した試料のそれよりも増加した。また、硬化初期から不均一に分布しており、その状態で硬化が進行していることがわかった(図1,図2) 。これらの試料における引張試験を実施したところ、各3分で硬化した試料の方が、各10秒の試料と比較して、破断に至るまでの変位及び荷重が大きかったことから、不均一性との相関関係が存在することが明らかとなった(図2)。

関連論文

  1. Aoki, H.; Ogawa, H; Takenaka, M. Neutron Reflectometry Tomography for Imaging and Depth Structure Analysis of Thin Films with In-Plane Inhomogeneity. Langmuir 2021, 37, 196-203.
  2. Ogawa, H.; Aoki, M.; Ono, S.; Watanabe, Y.; Yamamoto, S.; Tanaka, K.; Takenaka, M. Spatial Distribution of the Network Structure in Epoxy Resin via the MAXS-CT Method. Langmuir 2022, 38, 11432-11439.

小椎尾 謙 グループ

接着挙動に界面相互作用が及ぼす影響の解明と疲労試験の加速化

種々のジアミンとエポキシの官能基比で調製したエポキシ樹脂硬化物のバルクおよび単純重ね合わせ継手(SLJ)試料を調製し、網目構造および力学物性、接着特性の評価を行った[1] 。その結果、アミン含有量の増加に伴い、バルクの引張強度は上昇するのに対し、SLJの接着強度は低下した。このことから、接着界面において、被着体/接着剤の相互作用力がSLJの力学物性に大きな影響を与えることを明らかにした(図1)。また、種々の架橋密度を有する水素添加エポキシ接着剤を用いたバルクおよびSLJについて引張および引張せん断試験、疲労試験を行い、接着剤の架橋密度と界面相互作用と接着疲労挙動の関係を明らかにした[2]。

種々の温度下でエポキシ樹脂硬化物の疲労試験を行い、S-N曲線を取得した。各温度におけるS-N曲線を疲労寿命軸にシフトすることで長時間側の疲労寿命を予測することを可能にした(図2) 。

関連論文

  1. Bayomi, R. A. H.; Chu, C. W.; Obayashi, K.; Ando, Y.; Cheng, C. H.; Takahara, A.; Kojio, K. Influences of Amine/Epoxide Ratio on Cross-Linking Structure and Mechanical Properties of Cured Hydrogenated Epoxy Resin Sheets and Single-Lap Joints. Polymer 2024, 298, 126882.
  2.  Chu, C. W.; Cheng, C. H.; Obayashi, K.; Bayomi, R. A.; Takahara, A.; Kojio, K. Effects of Curing Conditions on Ahesive and Fatigue Properties of Hydrogenated Epoxy Resins in Bulk State and Single-Lap-Joint Configuration. Int. J. Adhes. Adhes. 2024, 132, 103690.

小林 卓哉 グループ

接着界面のマクロスケール解析

フィラー / マトリックスからなる接着界面のマルチスケール解析手法の開発を目的として、in situ TEM可視化による破壊挙動の観察と、分子シミュレーションによる破壊クライテリアの定量化を組み合わせ、FEMによる破壊力学解析のなかにダイレクトに実装する手順を確立した。この結果、エポキシ樹脂の強靭化、すなわち破壊(き裂)の進展に必要な散逸エネルギー増強のメカニズムを、ナノ粒子によるクラックアレスト、界面はく離、広域的塑性化の促進といった素過程に分解し、さらにその連鎖をシミュレーションによって表現することによって、強靭化の全体像を定量的に把握することが可能になった。接着強度設計の刷新に直結するデジタルプロトタイピングである。

図1のTEM観察からは、ナノ粒子との間に有限距離を残してクラックアレストを生じ、その間隙で塑性化とはく離によるエネルギー散逸がもたらされることが推測された。また分子シミュレーションの結果からは破壊クライテリアを定量化し、最新の非線形構造FEMによる破壊力学解析に適用した。クラックアレストを生じると、図2フレーム(d)、(e)、(f)のようにき裂先端に塑性域が発達し、粒子界面のはく離とシアーバンドが形成される。この結果、き裂は粒子を迂回して進行し、フレーム(g)、(h)に示すように次のき裂進展につながる2次き裂の発生まで、実験結果を再現することができた。この例では、ひずみエネルギー解放率 𝐺c にして7倍、耐力にして2倍の強靭化となる。粒子分散によって、このクラックアレストを断続的、持続的に確保できれば、材料の広域的塑性化が促され、強靭化が達成される。

関連論文

  1. Wang, P.; Maeda, R.; Aoki, M.; Kubozono, T.; Yoshihara, D.; Shundo, A.; Kobayashi, T.; Yamamoto, S.; Tanaka, K.; Yamada, S. In Situ Transmission Electron Microscopy Observation of the Deformation and Fracture Processes of An Epoxy/Silica Nanocomposite. Soft Matter 2022, 18, 1149-1153.

吉澤 一成 グループ

第一原理計算による接着の分子論とその応用展開

航空機等の先端的材料の製造にも使用される接着技術の分子論的理解を目指して、第一原理計算に基づく接着界面相互作用の理論研究を行っている。炭素材料とエポキシ樹脂の接着界面相互作用は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の強度性能を決める最も重要なファクターである。今回、我々はグラフェン及び酸化グラフェンとエポキシ樹脂モデルの相互作用に関して、差電子密度解析と結晶軌道ハミルトン密度解析を用いて研究した。酸化グラフェンは表面処理を行った炭素繊維のモデルにもなりうる。図1は酸化グラフェンの推定構造である。酸化グラフェン面上にあるヒドロキシ基やエポキシ基などの酸素含有官能基は、エポキシ樹脂の水酸基やエーテル基と水素結合を形成し、それを介した電荷移動現象が観察された(図2)。黄色の領域は接着相互作用によって電子密度が増加した領域、青い領域は逆に電子密度が現象した領域である。グラフェンでは電荷移動は殆ど見られないが、酸化グラフェンではそれが顕著に見られる。この電荷移動は接着界面相互作用を高める主な要因となる。

エポキシ樹脂を用いたアルミニウム合金材料の接着接合は、自動車、航空宇宙、その他の産業において CFRPの場合と同様に重要な役割を果たしている。大気中では、アルミニウムの表面が酸化され、アルミナが形成される。γ-アルミナ(110)表面は安定面として知られており、この表面の化学吸着水によるヒドロキシ基の被覆率は前処理温度によって変化する。1000℃で加熱したこの面にヒドロキシ基はほとんど存在しないが、常温では1 nm2当たり約9個のOH基が存在することが、実験的にわかっている。その接着メカニズムを解析するために、アルミナ表面とエポキシ樹脂との接着界面について第一原理計算を行った。図3に示すような、表面ヒドロキシ基の密度が異なる4種類のアルミナ表面(0, 3, 6, 9 OH/nm2)について、接着界面相互作用とエポキシ樹脂の接着力を調べ、表面ヒドロキシ基密度が接着機構に与える効果を考察した。表面のヒドロキシ基の被覆率が、0から6 OH/nm2まで増加するにつれて、接着強度は徐々に低下したが、9 OH/nm2の接着強度は比較的大きく、3 OH/nm2の接着強度とほぼ同等であった。この逆火山型の挙動は、電荷移動を伴う界面相互作用に由来し、表面上のアルミニウム原子の活性の変化と化学吸着水による表面再構成が原因である。注目すべきは、9 OH/nm2の接着強度が、化学吸着水が表面から完全に除去されている0 OH/nm2の接着強度に比べ、9 OH/nm2の接着強度がわずか6.9%しか減少しなかったことである。これらの結果は、エポキシ樹脂によるアルミニウム材料の接合技術に指針を与えるものと期待される。 図4にこの接着界面に働くことが推定される、4つの代表的な分子間相互作用を示す。

関連論文

  1. Shrestha, A.; Sumiya, Y.; Okazawa, K.; Uwabe, T.; Yoshizawa, K. Molecular Understanding of Adhesion of Epoxy Resin to Graphene and Graphene Oxide Surfaces in Terms of Orbital Interactions. Langmuir 2023, 39(15), 5514-5526.
  2. Uwabe, T.; Sumiya, Y.; Tsuji, Y.; Nakamura, S.; Yoshizawa, K. Elucidating the Effects of Chemisorbed Water Molecules on the Adhesive Interactions of Epoxy Resin to γ-Alumina Surfaces, Langmuir 2023, 39(50), 18537-18547.
  3. Nakatani, M.; Fukamachi, S.; Solis-Fernandez, P.; Honda, S.; Kawahara, K.; Tsuji, Y.: Sumiya, Y.; Kuroki, M.; Li, K.; Liu, Q.; Lin, Y.-C.; Uchida, A.; Oyama, S.; Ji, H. G.; Okada, K.; Suenaga, K.; Kawano, Y.; Yoshizawa, K.; Yasui, A.; Ago, H. Ready-to-Transfer Two-Dimensional Materials Using Tunable Adhesive Force Tapes. Nat. Electron. 2024, 7, 119-130.

 


数理統計・マテリアルズインフォマティクスグループ

久池井 茂 グループ

接着分野における 機械学習モデルの構築および実験検証 / ソフトウェアパッケージの構築

小椎尾Gから提供された疲労試験データを基に,初期サイクル(試験開始から一分後)のデータから疲労寿命を予測する機械学習モデルを構築し、バルク試料とSLJ試料で有効性を検証した。バルク試料での訓練データとテストデータの予測結果の一例を示す(図1)。

樹脂・CFRP界面接着力予測では,高温劣化した樹脂の引張強度残存率を予測する機械学習モデルを構築した。さらに、構築したモデルを基にして、引張強度残存率に影響を与える要因を特定し、その影響度を定量的に明らかにした。

更なる発展のために化学分野の現場で活躍する方々が機械学習手法等での解析を容易に行える環境構築を目指し、ソフトウェアパッケージを開発している。現在、実験条件から物性を予測する機能と逆解析の機能を搭載しており(図2)、その有用性は最適な配合提案[1]で実証されている。疲労試験データにも適用できるように機能追加し、大量の疲労試験データから必要なデータを抽出する前処理の自動化ができるようになり、より使いやすいソフトウェアに改良した。

関連論文

  1. Taniguchi, S.; Uemura, K.; Tamaki, S.; Nomura, K.; Koyanagi, K.; Kuchii, S. Multi-Objective Optimization of the Epoxy Matrix System Using Machine Learning. Results Mater. 2023, 17, 100376.

廣瀬 慧 グループ

統計数学を用いた高精度な疲労寿命予測モデルの構築/欠損データの補完アルゴリズムの構築

本研究では、接着現象の理解とスマート接着技術の構築を目指し、高精度な疲労寿命予測を行うための統計数学を構築した。まず、サイクルとひずみの関係性を表す非線形曲線フィッティングを行い(図1)、さらにエネルギー損失量などの物理量を追加した回帰モデルを組み合わせる新たな統計モデルを構築した(図2)。その結果、接着現象の理解と寿命予測が同時にできるモデルとなった。また、多変量重回帰分析[1]や欠損データ解析 [2]の基礎研究にも取り組んだ。とくに、ステージ1で構築した欠損データに対応したスパースモデリングであるSMRM(Sparse Multivariate Regression with Missing values) アルゴリズムを、入力・出力の両方に欠損がある場合に適用できるように拡張した。とくに、回帰係数をスパース推定できるよう、LARS(Least Angle Regression)アルゴリズムを適用した(図3)。その結果、SMRMが従来のLASSO (Least Absolute Shrinkage and Selection Operator)よりも予測精度が高くなることを確認した。

関連論文

  1. Hirose, K.; Masuda, H.; Matsui, H. Aggregation Value Regression and Its Application to Household Demand Forecasting. 10th International Congress on Industrial and Applied Mathematics(ICIAM 2023 TOKYO)2023.
  2. 馬場由羽貴,  廣瀬慧, ランダムでない欠測を含む時系列モデリング, 日本統計学会誌 2024, 53(2), 275.

 


分子接着技術グループ

横澤 勉 グループ

新規硬化技術による高耐熱性樹脂の開発/耐熱性ポリアミド接着剤の開発

重縮合で得られるエンジニアリングプラスチックは優れた耐熱特性を持つが、成型加工には結晶融解温度を越えた300 ℃以上の加熱を必要とする。このため低温実装可能な全芳香族性樹脂材料が求められている。当グループでは、二官能性アセチレン類の環化三量化によってベンゼン環を構築する、低温実装可能な硬化技術を検討している。今年度はベンチマーク樹脂としてフェノール硬化エポキシ樹脂とシアネート樹脂と比較した結果、熱分解温度 (Td5) もガラス転移温度 (Tg) も本樹脂のほうが耐熱性に優れていることが明らかになった (図1)。N-H 芳香族ポリアミドは、高分子間および被着体との多点水素結合によって接着の耐熱性と強度を上げられると期待し、昨年度、被着体と接着条件を検討した結果、N-H 芳香族ポリアミドの Tg より高温の 250 oC で接着すると、表面処理軟鋼板とステンレスが 7-8 MPa の破断強度を示した。また、Tg を低下させるため N-Me 芳香族ポリアミドとの共重合体を合成し、N-Me 芳香族ポリアミドを 70% 含むポリアミドが 150 oC の接着でも 6.83 MPa の強度を示した。今年度は対照実験として、N-Me ポリアミド単独重合体の接着強度を測定した結果、予想外に 150 oC の接着においても 11-14 MPa を示し、N-H 芳香族ポリアミドより高強度であった。そこでポリアミドの構造および接着条件について種々検討した。まず、ポリアミドについて、ジアミノジフェニルエーテルのアミノ基が p,m-置換体とp,p-置換体からなるポリアミド(図2)では、非対称の p,m-ポリアミドのほうが p,p-ポリアミドより高い接着強度を示した。加熱時間については、1時間加熱では強度が発現しきらず、7時間加熱後に最大強度を示した。また、加圧したほうが強度は高かった。ポリアミドの分子量依存性については、分子量が高いほど接着強度は大きくなる傾向であったが、高分子量体は溶液粘度が高く、被着体に塗布する際に凹凸が生じ、張り合わせ時の密着性が不十分になった。一方、 N-Et ポリアミドは溶剤溶解性が向上し、溶液粘度も低下した。被着体にも容易に均一に塗布でき、接着強度も 12 MPa を示した。

伊藤 耕三 グループ

硬く強靭なポリロタキサンゲル / ポリロタキサン含有多機能エポキシ樹脂

当研究グループでは、環動高分子や超分子などを用いたタフでしなやかな接着剤の開発とその分子的接着機構の解明を目指している。本年度はイオン液体を含有した硬く強靭な新規ポリロタキサンゲルの作製に成功した [1]。ポリロタキサンの軸分子であるポリエチレングリコールと環状分子であるシクロデキストリンが材料中で相分離することにより、ポリロタキサンハイドロゲルよりも約700倍硬く、かつ伸長誘起結晶化による強靭性の両立に成功した(図1, 図2)。また、エポキシ系ビトリマー樹脂にポリロタキサンを添加し、ビトリマーの架橋ネットワークと結合交換反応により一体化することで、硬さを維持しつつ強靭性と各種機能性を有する多機能エポキシ樹脂の作製に成功した(図3)[2]。ビトリマー樹脂は加熱により架橋ネットワーク間で結合交換することで、熱硬化性樹脂にも関わらず再成形や形状記憶の編集、傷の自己修復などが可能であり、ポリロタキサン含有により、複雑な形状への記憶編集や、自己修復スピードが向上することを見出した(図4 ※折り鶴状に記憶編集したフィルムを飛行機状に折直し、ドライヤーで加熱すると折り鶴の形状に戻る)。

大塚 英幸 グループ

自己修復性の分子骨格を利用した接着技術の実践的展開

三次元の網目構造を有する架橋高分子は、優れた力学物性を有する一方で、不溶不融であるために再成形が困難であることや、合成時に歪みが蓄積するという課題を抱えている。これらの問題を解決する手法の一つとして、近年、自己修復性の分子骨格である動的共有結合の導入が注目を集めている。当グループでは、「架橋高分子接着技術の展開」と「応力緩和技術の展開」という、接着技術における2つの挑戦的な課題に対して、これまでに開発してきた自己修復性の分子骨格を駆使して実現することを目的としている。前者に関しては、自己修復性分子骨格として、ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)ジスルフィド(BiTEMPS)を有する高分子や低分子が、結合組み換えに基づいて分子量や分子構造を大きく変換できることを明らかにした(図1, 図2)[1,2]。さらに、BiTEMPSを異なる割合で架橋点に有する3種の架橋高分子を合成し、希釈条件下で結合の組み換え反応を行うことで、全ての系で定量的に分子内架橋高分子を調製することに成功した(図3)。得られた一連の分子内架橋高分子を単独あるいは混合して加熱すると、異なる架橋密度の架橋高分子が再生されることが粘弾性および力学物性の変化から明らかとなり(図4)、架橋高分子のトポロジカル接着への応用可能性が明確に示された。また後者に関しては、BiTEMPS骨格を有するジグリシジルエーテルをアミン硬化して得られるエポキシ硬化物において、BiTEMPS骨格を含まない硬化物と比較して高い接着力が観測されたことから、硬化反応時にBiTEMPS骨格が組み換わることで、応力緩和が並行して起きていることが示唆された。これら以外にも、化学修飾を施したエラストマー特性を有する架橋高分子どうしの新たな接着手法を開発した(図5)[3]。

関連論文

  1. Takashima, R.; Aoki, D.; Kuwata, S.; Otsuka, H. Ring-chain Equilibria of Dynamic Macrocycles with a Bis(hindered amino)disulfide Linker. Polym. Chem. 2023, 14, 4344-4351.
  2. Takashima, R.; Aoki, D.; Takahashi, A.; Otsuka, H. A Thermally Driven Rotaxane–catenane Interconversion with a Dynamic Bis(hindered amino) Disulfide, Org. Biomol. Chem. 2024, 22, 927-931.
  3. Kotani, K.; Tsunoda, K.; Otsuka, H. Tough Tetrazine-functionalized Styrene–butadiene Rubber with Self-adhesion through Zinc–nitrogen Coordination, RSC Appl. Polym. 2023, 1, 229-242.

佐藤 絵理子 グループ

接着時の高強度化と界面剥離による解体を目指した新規易解体性接着材料の設計

当グループが独自に開発した界面剥離により解体可能な非分解型の硬化型易解体性接着材料について、ステージ1と比較して初期強度を1.4倍に向上し、さらに高い解体性(初期接着強度の14%まで低下)を維持することに成功した(図1)。高い解体性達成の要因が、基板選択的な界面剥離に起因すると考察し(図2)、さらなる高性能化の設計指針を得た。

種々のエポキシ樹脂の硬化剤として利用可能な解体性ユニット含有硬化剤(硬化剤2)の分子設計を行い、エポキシ化合物との反応性を向上させることに成功した。硬化剤2は、ステージ1で検討した解体性ユニット含有硬化剤(硬化剤1)より低い硬化温度で硬化が進行し、ゲル分率も向上することを見出している。さらに、易解体性接着剤として機能することも明らかにしている。

佐藤 浩太郎 グループ

機能性接着剤に向けた官能基含有植物由来モノマーの重合反応に関する研究

我々はこれまでに植物由来桂皮酸誘導体から接着機能が期待されるカテコール基をもつスチレン系モノマーへスケールアップにも対応できる合成手法を明らかにした(図1)。この手法では、桂皮酸誘導体の脱炭酸反応を伴い、反応性の低い1,2–二置換の二重結合が反応性の高いスチレン系のビニル基への変換される点において非常に汎用性が高い。このような手法を用いると図2に示すように、種々の官能基をもつバイオベース経皮酸誘導体へ適用可能であることを明らかにしている[1] 。さらに、カテコール保護基として、エステル基で保護されたビニルカテコールモノマーについて、リビング重合を見出すとともに、既存の接着剤のベースポリマーであるアクリル酸エステルとの共重合とについても達成し、選択的かつ実用的な脱保護を明らかにした[2] 。他のアカデミアグループとの連携により、この脱保護の手法をエポキシ系接着剤へと展開可能であり、スマートなバイオベース接着への可能性も示された[3] 。これらの知見をもとにさらに重合技術を深化することで、より高度に構造が制御されたポリマーの開発に成功しつつあり、保護基の選択によっては従来ラジカル重合では合成困難であった非常に分子量分布の狭いリビングポリマーの合成に成功し(図3)、またこの技術を応用したブロック共重合体や星型ポリマーなどの特殊構造をもつポリマーの合成へと展開している。このような機能性官能基をもつ天然由来モノマーの精密高分子合成により、バイオベース化された更なる革新的なスマート接着技術を構築し(図5)、他のアカデミアグループと連携して、その接着機構を明らかにすることも目指している。

関連論文

  1. Takeshima, H.; Satoh, K.; Kamigaito, M. Bio‐based Vinylphenol Family: Synthesis via Decarboxylation of Naturally Occurring Cinnamic Acids and Living Radical Polymerization for Functionalized Polystyrenes. J. Polym. Sci. 2020, 58, 91-100.
  2. Tanizaki, S.; Kubo, T.; Satoh, K. Novel Bio-Based Catechol-Containing Copolymers by Precision Polymerization of Caffeic Acid-Derived Styrenes Using Ester Protection. Macromol. Chem. Phys. 2022, 223, 2100378.
  3. Chu, C.-W.; Zhang, Y.; Kubo, T.; Tanizaki, S.; Kojio, K.; Satoh, K.; Takahara, A. Adhesion Promoting Copolymer of Acetate-Protected Vinyl Catechol with Glycidyl Methacrylate: Unraveling Deprotection, Adsorption, and Adhesion Behaviors on Metal Substrates. ACS Appl. Polym. Mater. 2022, 4, 3687-3696.

 


次世代接着技術社会実装戦略グループ

目代 武史 グループ

次世代接着技術の社会実装過程における産業構造変化に関する研究

自動車用構造部材の接合技術における接着技術の位置づけを分析するため、日本特許庁に登録された当該分野の特許を検索し、特許間の引用関係を分析した[1]。その結果、自動車用構造部材の接合技術は、特許間で引用の重なりが少なく、クラスターに分断されていることが明らかになった(図1)。移動体通信技術など他の産業と比べると、かなり疎な引用ネットワークであり、接合技術はコンパクトな知財構造といえる。また、特許の後方引用および前方引用のパターンから、オープンイノベーション(OI)タイプの分類を行った(表1)。製鉄メーカーが溶接技術やそれに適した素材技術を多数出願しているとともに、OIにも積極的である。接着剤メーカーは、特許引用が社内で閉じたクローズドイノベーションよりもOIがやや多い傾向があることが明らかになった。

開発技術の社会実装においては、事業性の検討のため潜在市場規模の推定が必要となる。そこで、フェルミ推定の手法を応用して、自動車用接着技術の市場規模を推定するアプローチを検討した。市場規模を構成する要因に因数分解し、各要因の推定値を仮置きし市場規模を推定した。そのうえで、推定値に影響を及ぼす影響因子によって潜在市場規模がどのように変動するかをシミュレートした(図2)。あくまで戦略策定のための検討材料であることに留意する必要があるが、例えば、新車販売に占めるバッテリーEV比率が中国並みなったとすると、接着剤市場は1.8倍程度成長し得ること等が示された。

関連論文

  1. 目代武史, 特許情報を用いたオープンイノベーションの可視化:自動車用構造部材の接合技術を対象として, 組織学会第80回九州支部例会 2023.
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